金曜日に絵本のことを

平和な1日だった。
しいて言えば、小雨が降って寒かった。仕事は忙しかった。そして、今は眠い。

ふと思ったことを書き留めて、今日の日記としたい。

 

 

キングコング某(にしのあきひろ)という芸人さんが企画制作した絵本がWeb上で無料公開されるという。これ、本人の「お金の奴隷からの解放」っていう無邪気な言葉を、本気で捉えるのは利口じゃないと思うのだ。

この無料開放というのは、要はダンピング戦略なのだ。
「お金は人を幸せにするものなのに、それに縛られるのは間違っている!」のならば、紙の本を無料にだってできるはず。でも、しないし、できない。でも、Webで公開する。

クラウドファンディングで資金を集め、企画を進め、所期の売り上げを達成したのだろう、と僕は推測する。最初から注目していた人、自分から進んで買ってくれる人の手には渡った。気になるものをぱっと買う人も、もう少ない。
これから先は、展覧会と口コミで稼ぐ必要がある。
こういう時は、インターネットが役に立つ。サーバーの費用なんて安いものだ。広告効果からしたら、ほぼ無料。
そして、世の中には「無料ならば欲しい」という人に溢れている。彼ら彼女らは、100円でも手に取らない。無料だから読む。
そのうち数%は、紙の絵本を買うだろう。Googleの無料サービスを利用する人間の数%が、有料のサービスにアップグレードするように。
試しに読んで、ネットで話題にする、あるいは他人に薦める人も多いだろう。たぶん新聞の広告よりも効果的だ。知名度だって上がる。記憶にも残る。

こういう戦略は、インターネット・サービスやアプリの世界では珍しくない。段階的に安くするのではなくて、完全に無料化できてしまうのだ。このはてなブログだって、基本機能は無料。

 

僕の観測範囲に限っていえば、そういう事(フリーミアム戦略とかロングテールとか)を知らない人達は、「色々と批判もあるようだけれど、こういう試みは他の人ではできないわけで、評価すべきだ」と喜んでいる。無知は怖い、とまでは言わないけれども、じゃあ純粋に「代金が払えない(けれど読みたい)子供のために無料化しました」という言葉を受け入れるのは、無責任に過ぎるとは思う。「いいね」して、コメントを書くだけならそれこそ無料だから、そんなことができるのかもしれない。

 

Twitter界隈の、アーティスト寄りの人達、ものを手で作る当事者の人達を観察すると、やはり危機感を持っているようだ。
「彼の発想は、ものづくりと経済の循環に悪影響がある」といった考え方もあるし、もっと素朴に「経済的なパワーゲームは創作の多様性を削ぐ」と言っている人もいる。
僕も、心情的には(特に後者に)同意する。逆に言うと、絵本の世界はこの「出版社以外の資金を集め、本を世に出し、紙の書籍以外のPRと収益を長く続ける」といった強かさを採り入れて欲しいと思う。

 

ただ思うのは、「お金には価値があるけれど、価値はお金ではない」という事実は、常に意識していかないと駄目だということ。
「金の奴隷から解放するために無料!」なんて乱暴な言い方は、それを忘れているからこそ出てくるのだ。

 

えんとつ町のプペル

さて彼の作品、「えんとつ町のプペル」は、実はいま手元にある。
昨年末に、知り合いの奥様にいただいた。「読んでみて、あまり好きになれなかった」という理由で譲ってもらったせいかもしれないけれど、うん、僕もあまり気に入っていない。

話は変わるが、「好きな店を目指した結果のカフェ」のお店と、「カフェが流行っている・格好良い・儲かる、だからカフェスタイル」のお店は、行けばその違いが歴然としている。
後者は苦手だ。具体的には、静岡県中部における「THIS IS CAFE」がそれで(変な名前だ…)、流行を採り入れるのは早いが、しかしどうにもちぐはぐで、どうしても最先端の少し後で、大げさに言うと“哲学”を感じないのだ。メニューに「カフェスタイルのパスタです」と書くカフェを誰が喜ぶだろうか。ガラスジャーに飲み物を入れるのならば(古い…)、そうする必要性を感じさせて欲しい。

 

えんとつ町のプペル」は、そういう匂いがある。
特に文章が、「大人も楽しめる絵本っぽさ」を意識して作っている、と僕には思えてしまう。誰かの作品というよりも、「絵本を作ってください」と課題を出されて、研究して作ったような“よくできた”感じというか。
子供向けでも、大人向けでも、僕はこういうものは絵本に求めていない。いや、こういう雰囲気でも、もっと突き詰めれば良いものがあるはずだ、と思ってしまうのが、残念なのだ。

 世の中には、あるスタイルを研究して、追求して、化学変化的に良いものが産まれることもある。傑作へのアプローチは誰にも予想できない。
だから頑張って欲しい、とは思う。

えんとつ町のプペル

えんとつ町のプペル

 

 

 

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