伊豆半島は熱海の観光ホテルにて、この文章を書いている。
温泉街の真ん中、昼間はそれなりに賑わっていた場所ではあるが、今はとても静か。
寂れたとはいえ歓楽街もあるのに、人が多いのはコンビニやマックスバリュ*1。そもそもカフェバーや居酒屋の類が店を閉めているのは、平日の夜だからか。
今回の伊豆半島旅行の目的は、アートと建築。
昼間には三島、函南、そして熱海と、戦前〜高度成長時代の建築を見て回った。思えばテーマを決めて、目的地を順繰りに辿る旅は久しぶりだ。実に楽しかった。
そして熱海で開催中の芸術祭にも参加した。
熱海の各所、使われなくなった小屋やイベントホール、そして観光ホテルが会場となっている。坂は多いがこぢんまりとした街だから、散策がてら楽しむことができた。
特に人気だったのが「ニューアカオ」での展示。
いかにも「昭和の観光ホテル」といった趣のニューアカオ。ホテルとしての営業は少し前に終わって、おそらく中を歩けるのは今回が最後。そのせいか、ここが最も混んでいた。
僕もここがいちばん楽しかった。
実は子供の頃に何度も泊まったホテル。母方の家が何か縁があったようで、親戚一同+祖母の姉妹という大所帯でアカオに行った記憶がある。子供心に古臭く感じたゴージャスさは今日も健在で、懐かしくも面白い体験ができた。
この件は後日きちんと書きたい。
そして今夜の宿。
ここもいわゆる「観光ホテル」で、おそらくは「ニューアカオ」と同時代の建物だ。
だからもちろん、ゴージャスだけれど古臭い。タイルと電球と絨毯がふんだんに使われたゴージャスは、もはや真似もできないだろう。
今はもう、大宴会場も、ラウンジも、麻雀室も使われない。ゲームコーナー*2さえも、新型コロナ対策でほとんど閉鎖中である。
斜面の多い熱海という土地で、過去に拡張を繰り返してきたせいで迷路じみている巨大なホテル。管理コストの関係か、真っ暗なフロアもあって、間違えてエレベーターで降りた時には「羊をめぐる冒険!」と嬉しくなってしまった。ちょっぴり驚いたけれど、昼に行った「ニューアカオ」でもフロア全体を真っ暗にした展示があったから、怖くはなかった。
そんな「昭和のホテル」の本館(=旧館)に今夜は泊まっている。
平成という時代を経たのに、なんと部屋にLANが無い。有線はもちろん無線LANも無い。パソコンを持ってきたのにブログが更新できない。
さらに言うとコンセントの数も足りない。「部屋で電気製品を使う」といえば、ドライヤーとシェーバーしか考えられなかった時代の部屋なのだ。
とりあえずインターネットが繋がる場所が欲しい。
フロントで聞いてみたら、ロビーとその周辺が公共Wi-Fiのエリアとのこと。
さらに、新型コロナ前には「社交ダンスホール」として使われていた部屋を、パソコン作業用に貸してくれた。
というわけで今は、このブログを、社交ダンス・ホールで書いている。
床は薔薇模様の絨毯、天井には星空。スイッチを操作すれば、豆電球*3。ほんの少し「夢かな」と思わせるちぐはぐさが楽しい。
温泉も食事も堪能したが、今夜の宿は、社交ダンス・ホールがハイライトだと思う。
フロント係は「駅の方に行けば夜でも流行りの店がありますよ」と教えてくれたが、もう出かける気になんてなれない。
もうしばらくパソコン作業をしてから、またお風呂に入って、そして早めに寝るつもり。坂道を歩いて疲れたのだ。たぶん、ぐっすり眠れるはずだ。