ATAMI ART GRANT 主に熱海「ニューアカオ」散策

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一昨日は熱海を旅行していた。
主目的はアートイベント「ATAMI ART GRANT」。
熱海の各所に展示されている現代アートの作品を楽しむ、いわゆる芸術祭だ。古い観光地である熱海ということで、展示場所も温泉地ならではの場所だったり、あるいは閉店した観光施設だったりと、作品と場所の組み合わせが面白い。

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最大の会場であるホテル「ニューアカオ」は、つい数ヶ月前に宿泊営業を終えたこと、そしていわゆる”昭和レトロ”な場所として人気だったこともあり、ネットでも話題になっていた。

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僕も「ニューアカオ」には思い入れがある。
母方の祖父母、特に祖母の姉妹が熱海と「巨大観光ホテル」が好きで、何度か親戚一同で泊まったことがある。岬全体を敷地に収め、温泉はもとより海水浴から庭の散策まで全てが完結する大きなホテル。増改築を繰り返した建物を探検するのも楽しかった。
自分が子供の頃には既に「古臭い豪華さ」があったと思う。装飾過剰、豆電球と派手な絨毯と凝ったタイル装飾の「別世界」。巨大な露天風呂や夕食の会場に浴衣でぞろぞろ歩く風景は、あの時代ならではのもの。

昭和の終わり頃からは、社員旅行の退潮と海外旅行の低価格化に押されて衰退、しかしハーブガーデンや社交ダンスといった”中高年向け”に絞った戦略で生き残ったが、今どきのホテルにはない豪華絢爛さが残る貴重なスポットとしても注目され今に至る…そんな場所だ。雑誌やWeb記事の、昭和レトロスポット特集では定番のホテルでもある。

そんな場所でのイベントだから、とても楽しかった。
異世界感というか、寂しさと非日常さを堪能しつつ、でも汚かったり危なかったりするところはまるでなくて、全体が旅みたいだった。
海は荒れていて、窓からは波濤がよく見える。什器が片付けられ、無人ではあるが清潔なホテル内を歩いていると、いきなり見たこともない芸術作品に出くわす。こんな体験は、普通に生きていたらまずできない。

 

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正直なところ、自分は「最後のニューアカオ」を見たくて参加した部分が大きい。でもアートとしても存分に楽しめたし、物見遊山や廃墟趣味では終わらなかったことは本当に嬉しい。今日も思い出して、感慨に浸っていたくらい。

ただしイベント自体は少しややこしい。
公式ページをきちんと読み込んで、現地でも案内されたとおりに行動する人ならば大丈夫。でも「ふーん作品についてはQRコードを読む?自分は作品詳細は要らないなあ」なんてマイペースで行くと、迷ってしまう。そもそもイベントの入り口からしてわかりづらい。

まず入り口。
会場は「ニューアカオ」だが、ホテルの正面玄関は閉鎖されている。
入り口は別館にして現在も宿泊営業中の「ホテルニューアカオ ロイヤルウイング」になる。そこで受付と簡単な説明を受けて「ロイヤルウイング」のロビー周辺の作品を見るのが第一段階。受付では「QRコードの〜」とか「アカオ側は奥の連絡通路を〜」と簡単な説明がある。それをきちんと聞いておく必要がある。パンフレットには「ロイヤルウイング」内の作品説明しか無いし、一見さんでは「ロイヤルウイング」と「ニューアカオ」の位置関係や連絡通路の存在はわかりづらいので。

そしてQRコード経由で読むことになる「ニューアカオ」の展示についての解説と案内パンフレット(PDF)。これが最も大切。

ただの挨拶文や作品解説のPDFではないのだ。文章にホテル内を巡るための「指示」が含まれている。当てずっぽうに歩いているだけではたどり着けない場所だってある。

なにしろこの案内PDF文書、本来はA4サイズのパンフレットなのだ。
スマホの画面で読めば、アートイベントらしい余白が多いレイアウトの文字は本当に小さい。そもそも「必ずこのデジタルデータを元に歩くべし」といったコンセンサスが無いまま、会場に入ることになるので、「読まない派」の人達は本当に困る。
実際、高齢の方々が何人も迷っていたし、中には全ての展示を見ることができずに帰る人もいた。

例えばエレベーターでの移動をするにも、このパンフレットを読まなければならない。エレベーター内の操作ボタンの大半、それに階数表示も見えないようになっていて、真っ黒いボタンを「あなたが3階から乗った場合は右列の上から2番めのボタンを押してください」といった指示に従い押すことになる。
間違えば、あるいは当てずっぽうに押せば真っ暗な客室フロアに到着する。正しく操作できても、真っ暗な客室フロアに着いて、それが正解だったりするからややこしい。
いくつかの客室は展示が行われているのだが、これも特に表示はない。作品の音が漏れ聞こえてくればわかるが、やはりパンフレットを読み込む必要がある。

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こういったややこしさも含めて、ホテル全体が大きな作品になっている、と僕は解釈した。それでもなお、これは不親切だった。昨今のテレビゲームでは、序盤にチュートリアル・エリアがある。狙い通りの体験をさせるため、必要な操作ができる事が次へ進む条件になっている領域。
おそらく「瀬戸内国際芸術祭」ならば、こういう不親切さは排除したと思う。「案内パンフを上手く活用せずに楽しめなかったことも大切な芸術体験」みたいなコンセプトでなければ、やはり用意した仕掛けは誰もが使えるようにしなければ。

ところでこの「ニューアカオ」、僕が最後に訪れたのは小学生か中学生の頃。
行ってみたら、当時の記憶、そして土地勘がどんどん蘇ってきて驚いた。「この廊下の先にはショッピング・エリアがあって、さらに巨大なイベントホールがある」とか、かなり具体的にわかるのでびっくりした。

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それにしても疲れるアートイベントだった。
ニューアカオ」自体が、増改築を繰り返して複雑な構造になっている。そもそも海に面した崖に建っていて、迷路じみたつくりの場所も多々ある。バリアフリー化が難しいことが「ニューアカオ」閉館の理由ではないかと勘ぐってしまうくらいに、傾斜や段差が多い。

ニューアカオ」の後に訪れた熱海の温泉街だって、坂だらけ。しかも車やバスを使うよりは「歩いたほうが早い」距離感。いきおい、とにかく歩いてしまう。
それでも「ニューアカオ」の館内は、ソファがあちこちにあって、体力回復ができるから良かった。熱海の街にはそんな気の利いた場所は無い。何度も喫茶店に入るわけにもいかない。結果として、おそらく人生初の「足湯が気持ちいい」体験をした。今まで足湯って、ぴんと来ないものだったので。

でも足湯が気持ちよくても、宿泊先のホテルで温泉に長く浸かっても、疲労は残る。
実は、まだ今日になっても、足に違和感がある。温泉地に行って疲労しているなんて、困ったことである。

mag.tecture.jp

ちなみに、この「ニューアカオ」のイベントは好評につき20日まで延期することになったと聞いた。曜日によっては休みの日もあるので、もし興味がある人はぜひ楽しんで欲しい。駅からバスもあるし、お手軽でもお腹いっぱいの豪華なアートイベントで、おすすめです。

 

 

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