昼過ぎに引越し業者さんが来て、ベッドも洗濯機も冷蔵庫も持っていった。
今、部屋はがらんどうである。
電気もインターネット回線も来ているから、エアーベッドと折りたたみ椅子とノートパソコンを広げて、妙に広くなった部屋で最後の晩を過ごしている。
なにしろ疲れた。
早朝から荷造り作業をして、業者さんが来る直前に一応のかたちに仕上げることができた。彼らがてきぱきと働いている横で掃除などをして、荷物を送り出したら動けないくらいに疲労していた。
それでも掃除は終わらせなければならない。
お腹だって空いた。埃まみれの部屋には座るところだって無い。
だから掃除を済ませるまでは、感傷も何も無かった。
気を抜くと手が止まってしまいそうで、ひたすら下を向いて床を(クイックルワイパーで)拭き続けた。
そんな状況だったから、晩ごはんはまともなものを食べたかった。
疲労困憊のまま高松の繁華街にある「しるの店 おふくろ」を目指す。
「しるの店」とは、主に味噌汁や潮汁など「汁物」を中心に出す飲食店のことらしい。そして庶民の飲み屋でもある。大盛りの豚汁とごはんを掻き込む人もいれば、ビールや日本酒と刺し身を楽しむ人もいる。
この「おふくろ」は今や数少ない「しるの店」であり、かつガイドブックにも載る有名店。でも夕方の早い時刻なら、空いていて、落ち着いて食事ができる。
席についた時に「食事か」を問われる。ここでYesと答えれば、何種類かの汁物を注文することで、自動的にご飯と漬物が付く。酒が苦手な僕には最高のシステムである。
汁物はどれも具だくさん。
滋養と栄養…と考えてアサリの味噌汁にしてみた。赤だしのアサリの味噌汁で具沢山なのだから笑ってしまう。
カウンターの上にあった鶏のキモの煮物も追加で注文する。さらにアジの南蛮漬けも食べる。なかなか豪勢な夕食となった*1。
四国らしい、香川らしい食事という観点からしても、大満足。
国道沿いのマクドナルドやCoCo壱番屋に行かなくて良かった。
しかし疲労の限界のなか無理をして繁華街を歩いていると、まるで旅をしているような感覚が蘇る。大抵の一人旅では、夕食の頃には疲れ果てて、でもなんとかその土地らしいものを食べたくで、最後の無理をするのだ。
そういえば、この数年間の四国生活もまた、どこか旅のような感覚があった。
未だに目線が旅行者というか、「香川らしさ」「四国らしさ」が見つかった時はとても楽しい。もっと極端な土地、例えば沖縄に住んでみたら毎日が楽しいだろうなと思うけれど、四国も十分に異邦である。
この「旅のような感覚」についてはまた改めて書くかもしれない。
明日までの四国生活を一言で表すのならば、これ以外に無いから。
「しるの店 おふくろ」の帰路、ふと思ったのだった。
「明日のこの時刻には、もうこの街にいない」
当たり前のことだけれど、ものすごく寂しくて不思議な感じがする。
*1:しかしこの店の店員さんたち、常にオーダーが通ったか否かで混乱している。たぶん見た目よりは混乱していないのだろうが、伝票をつけるとか、なにか対策をすれば良いのにと思ってしまう。余計なお世話だとは思うけれど