11月のパンタリタ

何年ぶりになるだろう、本当に久しぶりに訪れた「パンタリタ」は、変わらず良い店だった。

 

「パンタリタ」は静岡市駿河区栗原にある雑貨屋・カフェだ。
洋菓子屋の「リュバン」や草薙総合運動場日本平動物園の近く。すぐ裏手を東名高速道路が通っている。

高速道路の遮音壁が隣接し、周囲は住宅街。なのに森の中にあるような不思議な場所だ。ちょうどいい感じに手入れがされた庭と木、雑然としているが不潔感の無いさっぱりとした雑貨の店。その奥に進むと、カフェの部屋がある。

カフェは紅茶とコーヒー、季節のオリジナルティー等、それにシフォンケーキやスコーンなどがメニューに並ぶ。昔から変わらないし、どれを選んでもおいしい。

そう、このパンタリタは、昔から何も変わっていないのだ。
もちろん植物は成長するし、石やコンクリートは黒ずんでいる。お店の人達も老いたはずだ。
でも、決して荒んだ感じがしないし、古びてもいない。
10年や15年前に訪れた時のアンティークな感じ、古道具っぽさが、今日も同じように保たれている。

これはなかなかできない事だと思う。

リニューアルする前のku:nel、それにArneが流行っていた時代のままの雑貨屋でありカフェ。それが今も現存することが、まず貴重だ。

未晒しのリネンクロスに、ヨーロッパの古いガラス瓶、琺瑯のポットに、値打ち物ではない陶器や磁器の椀。そういった、肩の力を意識的に抜いたような品々を、風化したような木のテーブルに並べるような「さっぱりとした」世界観が好まれた時代が、かつてあったのだ*1

昨今、そのような雑貨屋やカフェは激減した。
大半は消え、残ったものは酵素ドリンクやヨガやデトックスや胎教といったスピリチュアルで似非科学な流行をその時々に混ぜ込んで、オーガニックマニア向けに先鋭化していった。
ごく一部の要素のみ、セレクトショップのインテリアに引き継がれている。

 

 

そういった時代の流れに抗い、パンタリタは今日も数十年前と同じ風合いを保っている。
新型コロナ対策の貼り紙と、昔より大きく育った観葉植物以外だけが、昔から変化している。それくらいに変わらない。

ここまで同じテイストを続けることは、たぶんおそろしく難しい。
こういった場所は、努力をしないと時代の流行をどんどん吸い込んでしまうもの。商売ならば尚更だ。さらに、ナチュラルな趣向は、どうしたって荒れやすい。
変化するのが当たり前のものを、同じに保ち続けるには注意深くエネルギーを注ぐ必要がある。
どれだけ"好き"を突き詰め、取捨選択をして、手を入れ続けてきたのだろう。静岡で飲食店や雑貨店を営む人達が、揃って一目置く理由がよくわかる。
自覚的な努力が、この店を同じかたちに留めている。まるで魔法みたいだ。しかも、離島や山奥ではない、静岡市の住宅地にあるのだ。

 

そんなパンタリタのスコーンは、もちろん変わらずおいしい。
まだしっかりと熱く、ざっくりとしたスコーンに、たっぷりのクロテッド・クリーム。それにブルーベリーとイチジクとスパイスのジャム。すばらしい組み合わせだ。

アールグレイは紅茶というより柑橘類のハーブティーみたいな爽やかな味。この店だけのオリジナルティーと言われても納得してしまうが、でも飲み終えると確かにアールグレイなのだった。

 

 

広いお店ではないし、店主達の年齢もあり、制限はいくつかある。
不定休、ティールームでの滞在時間の制限*2、大人数での利用不可など。でも、そういった諸々を差し引いても、静岡県中部で最高のカフェであり雑貨屋であることは確実だろう。

 

 

 

訪れたのは久しぶりだが、なんだか近いうちに再訪しそうな予感がする。
すっかり気に入ってしまったのだ。理由があって遠ざかっていたわけではないのだが、気まぐれに訪れて、特別な場所だったことを思い出したのだった。

 

お題「大好きなおやつ」

 

*1:雑誌でいうと「天然生活」が生き残っているけれど、ちょっと変質したように思える。

*2:50分?

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