春が立つ 立春ライブ

1時間前まで、高松の中心街にあるライブハウスにいた。
どうして火曜日の夜にライブなのか。それは50代以上の元ロック少年・青年達が中心のイベントだから。たぶん週末より安く開催できるのだろう。若者と違って明日の出勤の心配をしなくてもいい。

四国では数少ない「街」である高松市は、この種のイベントや人達が集まりやすい。街の規模に比べて音楽活動が盛んな場所ではある。

さすがに孫ができる年齢でもギターやドラムを続けているだけあって、上手い人が多い。しかし僕の好きなタイプではない。というか、若い頃から「ああ、この年上の人達の音楽は古臭いなあ」と思っていた部分がそのまま再現されていて、いささか退屈だった。

元同僚の友人から「数合わせに」と招待されて参加したので、あまり悪く言うのは気が引けるのだけれど、なにしろ音楽なので嘘をついても仕方がない。アンコールの後もだらだらと何か続きそうな雰囲気だったが、帰ることにした。

老人達以外にも、数人だけ若者の参加者がいた。
ヘルプというかゲストで呼ばれていた、四国と中国地方で活躍するアマチュアの人達。2人組の男の子と、ソロの女の子。

ソロの女の子は、ギターやサックスも駆使して、なかなか面白かった。ただしイベントの雰囲気としては、ほとんど「アイドル」扱いだったのが気になる。
歌の中では「属性ではなく言葉を聞いて」と何度も主張しているのに、周りで演奏している人達も、オーディエンスも、完全に「貴重な女の子」としての可愛がり方をしていた。
ここまで露骨な「おじさん」っぷりも珍しい気がする。他の土地でも(高齢化が進むロックバンド界隈では)そういう傾向は有ると思う。でも腐ってもロックな人達である。矜持に従い、多少なりとも抑制をする。
カラオケじゃないんだから、と隅の方(多少なりとも若い人が集まっている)で友人と話していたら、ソロの子の友達が同意してくれた。「でも四国ではハコもイベントも無いのです」と言っていた。

 

マルドゥック・シリーズ【合本版】 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・シリーズ【合本版】 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

男で中年である僕はそういう苦労はほとんど無いけれど、代わりに「マウントおじさん」にはそれなりの頻度で遭遇する。
マウントおじさんは、ちょっとお洒落である。持ち物のいくつかは、自分なりのこだわりで選んでいる雰囲気がある。
そして他人の「こだわりアイテム」にも敏感である。
僕の自転車(なんと香川県産とイギリス産である)が、それにあたる。自作の革鞄や、カメラや、1人で芸術祭に参加している事なども、彼らのセンサーに反応する。
なにしろマウントおじさんなので、対象者には気軽に話しかける。自分の事を多く語り、僕の話を少し聞いてから、またおじさん自身の話をする。面白い時も、つまらない時もある。
そして最後にこう言うのだ。
「俺は認めるよ、お前の生き方」
冗談みたいだが、指をぱちんと鳴らされた事もある。
「身体を壊して仕事を辞めた」なんて境遇でも「いいじゃない。俺は好きだよ、そういう人生」と言い放つ。

しかしそれだけである。当然ながら、何もしない。
寛容で、傲慢で、何もしない。まるで神様である。僕は神様には(文化的な視点以外の)興味がまるで無いので、マウントおじさんと話してもほとんど得るものはない。
時間を無駄にして、少し気を遣うだけである。どうという事もない。

 

セラフィム 2億6661万3336の翼 《増補復刻版》

セラフィム 2億6661万3336の翼 《増補復刻版》

 
押井守の映画50年50本(仮)

押井守の映画50年50本(仮)

  • 作者:押井 守
  • 出版社/メーカー: 立東舎
  • 発売日: 2020/08/08
  • メディア: 単行本
 

 

でも、女性の場合、ライブハウスや個展で「マウントおじさん」あるいはその亜種にしつこく付きまとわれるというから、同情してしまう。

しかしおじさんが複数の場合は、中年男性にとっても災厄となる。なぜかマウントおじさんが2人以上いて、年下の男性を捕まえた時には、説教が始まる。
多神教の神様が喧嘩と戦争と天罰ばかりしている事と関係があるのかもしれない。無いのかもしれない。
説教の内容については割愛する。僕の場合、この災厄を終わらせる為には嘘でも何でも駆使することにしている。「どうせ他人モード」である。

マウントおじさんズ*1がライブハウスや現代アートの個展で女性に近づいたらどうなるのか。たぶん今日のライブに近い雰囲気になるのだろう。地獄である。

 

他人を引きずりおろすのに必死な人 (SB新書)

他人を引きずりおろすのに必死な人 (SB新書)

 

 

 

たぶん僕も、あと何年もしないうちに、彼らの眷属になる。今はただ、彼らの姿を目に焼き付けることしかできない。それはほとんど自戒に近い。家族も配偶者もいない自分にとっては「ああいうふうにはなりたくない」という思いだけが、その病*2の進行を遅らせる薬なのだ、たぶん。

 

 

誰も語らなかったジブリを語ろう (TOKYO NEWS BOOKS)

誰も語らなかったジブリを語ろう (TOKYO NEWS BOOKS)

 

 

 

そんなわけで、変な感じの立春
ちなみに高松市では、マウントおじさんは港周辺に多い気がする*3。観光用に整備されたエリアを自転車で走っていると、彼らに捕まる。
ただし今は寒いので見かけない。低温で活動が鈍るのだと推測する。
ライブはまあまあだった。
他は順調。お財布に入っていた2000円札をコンビニで使おうとしたら「少々お待ちください」と長く待たされてしまった。外国人のアルバイトだったのかもしれない。偽札に見えても仕方がないし、国によっては偽札は日常的に警戒するものだから。単に2000円札を知らない世代かもしれないけれど。

 

 

お題「今日の出来事」

*1:複数形

*2:あるいは祝福かもしれない。オタクが自意識に苛まれなくなるのだ、昇天といって良いだろう。古のオタクにとっては堕天かもしれないが。

*3:たぶん飲み屋街にも多くいるのだろう。お酒を飲まない自分には関係が無い。