グラベルおじさんからの質問

あまりに運動不足なので、家事の合間に近所をサイクリングしてきた。
実家から近い、舗装が割れて凸凹になった遊歩道(元・遊歩道)を久しぶりに走る。

タイヤの細い自転車では絶対に入りたくないような道だが、電動自転車のBesv PSF-1ならば力任せに入っていける。筋力が弱い自分でも楽しめるのは、モーターアシストのおかげだ。
小さなホイールと街乗り用のタイヤの組み合わせも、走りやすい。
普段あまり恩恵を感じないサスペンションも、きちんと仕事をしているようだ。

 

 

最後に少しだけ坂を登ろうと、峠道に差し掛かったところで知らない人に声をかけられた。
本格的な自転車乗りの格好をした、50代くらいの男性だ。
わりと新しいロードバイクに跨り、一休みしている。
ぴたっとした派手な服を着て、荷物は少なく、ぎらぎらしたサングラスをかけていて、典型的なロードバイク趣味者といった感じ。

彼は僕に問う。
「それはグラベルか?」
僕は答える。
「いいえ、街乗り用の折りたたみ自転車です」
「でもグラベルだろ?」
「いいえ、電動自転車なので、凸凹道でも多少の無理が効くんです」
「この先の坂は(ロードバイクでは)走りづらいぜ。あんたの自転車はグラベルなんだろ?」
グラベルとは違いますね。小径車なので、坂も路肩も走りやすいんですよ」
「ミニベロはロードバイクじゃないね。でもマウンテンバイクでもない。それで速いんだから、そういうのグラベルだよ」

 

ふと、大昔のテレビゲームを思い出す。
ドラゴンクエストとかファイナルファンタジーといった、ロールプレイングゲームには、こういう状況があった。
1人分の幅の道を塞いだ老人が「怪物に攫われた娘を救ってください」と言ってくる。「はい・いいえ」と選択肢があるけれど、「いいえ」を選んでも話は進まない。道をあけてもらうには「はい」を選ぶしかないのだ。
なにしろゲームなので、老人の横をちょっとすり抜けて通るわけにはいかない。いわゆる「見えない壁」の変形なのだろう。

 

とにかく、このロードバイクおじさんに対しては「はい。グラベルです」と答えないと先には進めないようだ。


実際、こう答えたら、会話は終了した。
「はい、グラベル的なところはありますね。長距離も走れますし、ある程度は未舗装路もいけます。わりと万能なんですよ」

ロードバイクおじさん(グラベル確認おじさん)は最後に「ふふん」と行って、先に行ってしまった。
なんとなく嘲笑気味の「ふふん」だった*1
彼は「ふふん」と言いたかったのだろう、と推測する。

 

 

このように、時々フィクションに近い状況が発生するのが静岡県中部の田舎なのだった。

 

帰宅した今になって彼のことを思い出している。
僕が峠道の入口に向かって走っていた時、ずっとこちらを見て、わざわざ待ち構えていたのだ。
彼はまた、どこか別の場所で、あるいはあのアスファルトが割れた田舎道で、「グラベルっぽい自転車」というよりも正確には「ロードバイクではない自転車の持ち主」を、探すのだろうか。
どうか長く続けて、地元の有名人あるいは怪談になってほしい。
くせの強い人間が点在するくらいのほうが、世界はおもしろい。

 

お題「気分転換」

 

 

*1:ロードバイク趣味の中高年のなかには、似て異なるジャンルを露骨に見下す人がいるのだ。

t_ka:diaryは、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。