昨日に観た映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』について書く。
明確なネタバレは無い。
水木しげる原作の漫画・アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメ映画であり、鬼太郎シリーズの前日譚を描いた作品だ。
鬼太郎といえば目玉の親父だが、彼の誕生秘話でもある。
全体に横溝正史的な、おどろおどろしい因習と怨念の世界を、鬼太郎らしい妖怪ものと絡めた映画。PG12ということで、かなり凄惨な表現もある。
古く閉ざされた村、戦後10年で復興する日本と対照に戦争の影を振り払えない男、妖怪や幽霊を利用する業の深い一族。そういった状況で、誰も彼もが傷つき、多くのものが喪われる。それでも男は謎から逃げず、やがて人知を超えるおそろしいものに立ち向かうことになる。
なかなかに気の滅入る話ではある。
ただ、アクションシーンの出来がいいし、鬼太郎要素は品よく散りばめられている。ファンならニヤリとするし、ファンでなければ「なんだか格好いい」程度で楽しめるだろう。
実のところ、漫画「ゲゲゲの鬼太郎」の第一話「鬼太郎の誕生」で、鬼太郎が世に生まれ、目玉の親父が"誕生"した話がある。
もし映画を見るのなら、この漫画は読んでおいたほうがいい。今なら無料公開中だ*1。
多くの劇場アニメ映画が原作を毀損、あるいは無視するなか、この漫画「鬼太郎の誕生」と矛盾しないつくりになっていることが、この作品の大きな美点だと思う。
この一点だけでも、拍手をしたくなる。
昔から何度もアニメ化された「ゲゲゲの鬼太郎」や、漫画作品とはずいぶんと毛色が違う作品だ。アニメの主題歌にあるような、恐ろしくも気楽な妖怪話とは程遠い。
そういう意味ではスピンオフというか、同じ素材を使った全く別の話ではある。
たとえば士郎正宗の「攻殻機動隊」が、押井守監督の映画やTVシリーズ「攻殻機動隊 スタンド・アローン・コンプレックス」では道具立てや設定を共有しながら、全く別作品となっていたようなものだ。
ほとんどパラレルワールド的な「攻殻機動隊」の各作品ではあるが、それぞれがきちんと原作漫画の"肝"の部分を全く違う色合いで形にしていた。
特に自分の場合、「攻殻機動隊 スタンド・アローン・コンプレックス」が登場した時には、驚かされた。こういう「攻殻」もあるのかー、と感心した。
「鬼太郎誕生」の感想も、それに近い。
今までのゲゲゲの鬼太郎とは大違いだ。水木しげるさんが生きていたら、これはゲゲゲの鬼太郎じゃないと言うかもしれない。
でも、1つのエンタメ作品として、ゲゲゲの鬼太郎ワールドの前日譚として、現代社会と妖怪と鬼太郎ファミリーと人間の物語のスタート地点として、矛盾なく成立している。
水木しげる氏なら「妖怪より人間のほうが恐ろしいや」「フハッ」「全く」で済ませるところを*2、横溝正史&妖怪ホラードラマでねちねち描いて、それでも最後には「ゲゲゲの鬼太郎だ」と納得してしまう。
全く違うものを作るつもりで、しかし「ゲゲゲの鬼太郎」の勘所は押さえて作る。
なかなかできることではない。
そういうわけで、大した映画だと感心しているし、可能ならばもう一度くらいは映画館で楽しみたいとさえ思っている。
良い映画だった。