友人とその子供達と、アニメ映画「アイの歌声を聞かせて」を見てきた。
なかなかおもしろかった。
真夏が自粛期間ではなく、夏休み向けアニメ映画として上映していたら、大ヒットしていたかもしれない。
前半はドタバタの、よくある「天真爛漫なAIが引き起こす騒動によって人間が仲直りしたり恋が進行する青春ドラマ」である。
田舎町に作られた人工知能と自動化の実験都市。クラスで孤立する主人公と、彼女を見守るパソコンオタク少年。どこか空虚なリア充イケメンと、主人公への当たりがきつい少しギャルっぽい女子*1。物語を動かすために必須の肉体担当である柔道部員の朴訥な男子。
そこに転校してくるアンドロイドの少女。秘密裏に行われているAIのテストではあるのだが、さらに秘密があって…みたいな、本当にありきたりな話。
中盤からも、わかりやすく平凡なストーリーが続く。
大抵のことはAIがハッキングでなんとかしてしまうし、人間の感情は歌(このアンドロイド=AIは歌が得意)で動かす。攻殻機動隊ならば不穏な状況に陥りそうだが、この映画ではわかりやすい悪者は1人だけ。中高生が考えた「冷徹な大企業の管理職」みたいな人が出るだけ。
そして後半。天真爛漫過ぎて謎がほったらかしになっていたアンドロイドの秘密、様々な伏線が回収される。
ここはなかなか面白い。
ネットワークやコンピューターの用語をほとんど使わずに、今のスマホやWebサービスを使っていればわかる位の理由と、専門家ならば「ありえない」と言いそうなIT的なファンタジーで、一気に畳み掛ける。
電子ネットワークとコンピューターの乗っ取りが可能ならば”なんでもあり”の話になってもおかしくないのに、序盤から続く「友達」「幸せ」「思い出」といったキーワードに沿って風呂敷は畳まれていく。
近未来SF-デジタル人情物語は山ほど作られてきたけれど、実にさっぱりとした良い話の進め方だった。特に、それほどコンピューターに詳しくない友人も、彼女の娘さんも息子さんも、それぞれの知識をベースに話の流れを間違いなく掴んで、きっちり楽しんでいた点は、特筆に値するだろう。なかなかできるものではない。
そういえば、この映画では珍しく「匿名掲示板」も「SNSで拡散する悪意」も「インターネットを通した世界中の善意」も、ほとんど登場しない。個人的には、ネットワーク化社会とか言いながらも”今そのまんま”の「怖いインターネット」を描く昨今の作品に飽きていたので、この部分はとても好感が持てた*2。
SONYやGoogleが提唱する数年後の未来を、もう少し日本の田舎寄りにカスタマイズした世界を、説明シーンやセリフもないのに無理なくストーリーに織り込んでくるところも良かった。
前半は平凡で、しかも(見た目は可愛らしい女の子であるアンドロイドが)唐突に歌い出すシーンが何度も続くから、ちょっと辛い。しかしそれでも絵は癖がなく綺麗だし、テンポの良い掛け合いが続くから、集中して見ていられる。
そして後半の盛り上がりで、すぱっと気持ちよく終わる。
というわけで、シンプルで楽しい映画だった。
真面目に考えれば変なところもあるし、「そもそもあの人のミスじゃないか…」みたいに言い出せばきりがない。AIが万能すぎるとか、ツッコミどころもあるだろう*3。
でも、その辺のSF的なディテールや個々人の事情をばっさり割愛して、歌と青春で120分未満で駆け抜けたことで、気持ちが良い佳作になった。楽しい映画でした。
しかし友人親子の付添いとはいえ、新型コロナのどたばたが明けて、ようやく家族以外との外出や買い物、そしてお茶ができたことが、本当に感慨深い。
まだマスクは着けているし、お茶をした店だって人の少ないところを選んだけれど、それでも1ヶ月前にはできなかったことだ。あちこちのスーパーコンピューターや研究機関が12月の再流行を警告しはじめた。できれば食い止めたいところだ。旅も外食も1人で平気な自分でも、そう思う。