井川線 日帰り旅行 後編

今日は知人に会ったりケーキを食べたりと、概ね平穏に過ごせた。
それはそうと、先週に行った井川への日帰り旅行について。今回は後編。

f:id:t_kato:20211101225040j:plain

大井川鐵道井川線で、大井川沿いを北上。
長島ダム駅で降りて周辺を散策、再び駅に戻ってトロッコ列車に乗ってからの話。

f:id:t_kato:20211101225136j:plain

ここから先は本当に過疎地となる。
駅前にあるのは山道だけ、あるいは(冗談みたいな話だが)駅で降りても道も家も施設もない、ただ駅があるだけという無人駅すらある。
風景は素晴らしい。
チンダル現象で水色に見える湖水と山の緑。あと少しすれば紅葉が眩しいだろう。
ハイキングには素晴らしい場所だ。

f:id:t_kato:20211101225235j:plain

f:id:t_kato:20211101225246j:plain

f:id:t_kato:20211101225257j:plain

井川線で有名なのが湖上駅。
ダム湖の真ん中に、ほとんど島みたいに突き出した山があって、トロッコ電車用に高い橋がかけられている。ちょうどその”島”部分に駅が作られている。
この駅からは、東屋(土日だけカフェっぽい飲食店になるようだ。)とハイキングコースへの接続路しかない。
駅に降りると、ダム湖にかかる橋を渡ってから、急な階段と山道を上り下りして、湖の脇にある車道に出る。それ以外に道はない。

f:id:t_kato:20211101225406j:plain

f:id:t_kato:20211101225416j:plain

橋は高くて絶景なため、降りる客は多い。
僕も今回はこの駅で降りた。
しかし車道に至る階段も山道も、かなりの急勾配で、高齢者にはちょっと厳しい。僕は数人の老人に頼まれて荷物を持ったけれど、途中で「これは無理」と引き返していた。引き返した場合は、次のトロッコ電車が車で東屋か駅で1時間ほど待たなければならない。
僕もかなり息が切れた。ハイキングコースを名乗るには、少し辛い道だった。

車道に出てからも、坂は続く。
先ほど降りた湖上駅を見下ろす展望スポットを通り、車道やハイキングコースを歩いて次の駅を目指すのが定番ルート。道はいくつかあるけれど、他に目的地もない。

 

このコースも、わりときつい。
途中で観光用に作った吊橋を渡ってみたり、滝や展望台に立ち寄ることはできる。ただ基本的に歩くだけなので、特に一人旅では不安になってくる。

天気も良くて、トロッコ列車の中では震えていたのに、道を歩いているときは長袖Tシャツでも汗をかいた。

とにかく、ひいひい言いながらも次の駅、接岨峡温泉駅へ到着。
温泉に入るのは少し早いので、終点の井川駅を目指す。

 

f:id:t_kato:20211101225459j:plain

井川駅ひとつ前の無人駅である「閑蔵」で降りる客が多かった。フリーパスで乗れるバスを使うほうが、トロッコ列車で井川に行くよりも便利なようだ。

f:id:t_kato:20211101225629j:plain

とにかく井川線の終点が井川駅。終点ではあるが、こぢんまりとしている。
そして駅から徒歩5分の場所に井川ダムがある。
ダムをしばらく眺めてから、電力会社のPRセンター的な「井川展示館」*1を見学した。

f:id:t_kato:20211101225726j:plain

f:id:t_kato:20211101225732j:plain



この展示館の裏というか駐車場からは、廃線跡を利用した遊歩道が伸びている。かなりわかりづらい、というか案内表示は遊歩道に入るまで皆無なので、ちょっと探してしまった。ダム側から外階段を上って展示館に入り、入り口カウンター向かいの駐車場側の出入り口からそのまま外に、そして不安になりながらまっすぐ歩く。「遊歩道」や「ハイキングコース」といった、表記が一定しないいくつかの看板を通り過ぎると、古い線路が敷かれた遊歩道に出る。

f:id:t_kato:20211101225803j:plain

f:id:t_kato:20211101225814j:plain

f:id:t_kato:20211101225825j:plain

遊歩道はとても快適だった。今回の日帰り旅で、唯一の快適な道だったかもしれない。
2本の線路の間は砂利が敷かれているし、トンネルも整備されている。ヤマビルの死骸がいくつかあったから、暖かい季節はヒル対策が必要かもしれない。
元が鉄道路線だから起伏も坂もなく、静かな山の中を存分に歩いて楽しめる。

そして遊歩道の終点から先は、またしても車道、そしてハイキングコース。
吊橋に行くにも、急な下り坂。もちろんその後は上り坂。いつまで経っても井川の集落へはたどり着けない。

f:id:t_kato:20211101225851j:plain

f:id:t_kato:20211101225901j:plain

途中で「井川大仏」へ立ち寄った。
地元の歯科医が長い歳月と巨費を投じて作ったという大仏。見た感じは、地方の霊園にある不動産屋が建てたそれと変わらない。ただし、地元の人達には素朴に信仰されているようで、珍スポットの趣は無い。
ここに行くにも、やはりそれなりの高低差と距離を歩く。

f:id:t_kato:20211101225933j:plain

冗談みたいな山の中の「通学路」を歩き*2、さらに林道を進むと、ようやく井川の集落へと到着する。
本来は、井川駅から集落へはダム湖を渡る無料連絡船があるのだが、今は水量が少ないために休止中なのだった。

そのせいか、井川の集落はひっそりとしている。
地元の人向けの”なんでも屋”は開いているけれど、観光客向けの店は「土日のみ開けます」と貼り紙があるだけ。新型コロナ対応もあって、まだ週末しか本気を出していない様子だった。

f:id:t_kato:20211101230025j:plain

仕方がないから、行動食として用意したリュスティックとシナモンロールを昼食代わりにする。登山趣味のパン屋で買っただけあって、どちらも小さいのに元気が出そうな味だった。ああ、熱いコーヒーが飲みたいなあ…と思ったことを覚えている。

f:id:t_kato:20211101230107j:plain

f:id:t_kato:20211101230117j:plain

パンフレットには「レトロな町並み」と書かれていた井川集落。しかし家の近所の「過疎集落」と大して変わらない。
そもそもパンフレットでは気軽な観光スポットのように書かれている吊橋も大仏も(そして閉業中の農産物直売所も)、行くだけで足が痛くなるくらいに距離があるのだ。

気持ちとしては、もう少し長居をしていても良かったのだけれど、足が限界になったので井川駅に戻ることに。上手い具合にバス*3に乗せてもらえたので、駅まではあっという間。

f:id:t_kato:20211101230240j:plain

f:id:t_kato:20211101230248j:plain

f:id:t_kato:20211101230256j:plain

帰路の井川線は、途中下車も乗り換えも無し。
やはり寒い。午後4時を過ぎれば風も冷たい。そして冗談みたいに吹き曝しの車両もある。普通の「壁がある」車両も、窓の半分は開いていて、とても寒い。
往路と同じく最大級の厚着をして、千頭駅を目指す。帰路の観光案内はいくぶんあっさり目だが、それでも景色の良いところでは減速もする。そもそもスピードがまるで出ない列車だから、想像以上に時間がかかる。

f:id:t_kato:20211101230143j:plain

f:id:t_kato:20211101230147j:plain

f:id:t_kato:20211101230154j:plain

千頭駅で下車をして、井川線の旅は終わり。
駅からは車でひたすら大井川沿いの道を下っていく。途中で立ち寄ったコンビニのコーヒーがおいしかったこと。つい、普段は買わない肉まんを食べた(これもおいしかった)。

次に行くとしたら、もう少しのんびりと歩きたい。
そして、多少は荷物が重くなっても、熱いコーヒーは持っていく。

f:id:t_kato:20211101230332j:plain

普段の行楽、観光の尺度でいうと、井川と井川線沿線は、いささか密度が低い。かなりの距離を歩くことになる。ダンプトラックが走る車道を歩く機会も多い。普段からウォーキングやハイキングをしている人でなければ、ちょっと大変かもしれない。
それに名物料理なども無い。あるのかもしれないけれど、駅前にあるのは平凡な「山菜そば」であり、集落の食料品店で買えるのは定価のスナック菓子や煎餅である。
その分、観光用に”鄙びた感じ”にしていない、本当の「山とダム湖と山村」をお手軽に楽しめる。鉄道マニアの定番路線と聞くが、乗り物好き以外にも(もしも健脚ならば)おすすめできる。

たぶん足を痛めたのだろう。今も足を曲げると、ほんの少しだけ疲労した感覚がある。
ここ数ヶ月は人生で最大級に運動不足だったとはいえ、体力や脚力に関しては愕然とした旅だった。
でも、行けて良かった。静岡県中部の人間としては、近くて遠い場所だった。

 

 

 

*1:とても立派だが、ほぼ無人だった

*2:本当に学校があった。

*3:地元の人向けのバス。大きめのハイエースだった。

t_ka:diaryは、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。