神長官守矢史料館

神長官守矢史料館について書いておく。

先週の山梨県訪問のついでに立ち寄った、長野県南部の小さな史料館。
あともう少し北上すれば諏訪湖、すぐ近くには諏訪大社の上宮もある。

 

 

ここも「かっこいい建築」が目的での訪問だったが、予想以上に面白く、印象に残っている。

建物の趣旨というか目的は、こんな感じ。

  1. かつて諏訪には独自の神を奉じた集団がいた
  2. 大和朝廷による征服を経て、諏訪神社となった
  3. 土地経営は大和朝廷が、そして神事は非征服民の有力者である守矢氏が司る体制となった
  4. 守矢氏は長くこの”古き信仰の形”を続け、いわゆる出雲・伊勢の神道とは異なる祭事を受け継いできた
  5. 例えば神道の基本である五穀豊穣であるが、諏訪の地では串刺しのウサギやシカの脳などを供えていた
  6. しかし、明治維新の後、諏訪大社にも国家神道宮司が配置された
  7. 神事もまた出雲・伊勢スタイルの一般的なものとなった
  8. 古き時代の伝統を顕彰し、また残すため、守矢氏の住まう土地に史料館を立てるものである

 

というわけで、こぢんまりとした史料館が、豪農兼神社みたいな守矢氏の敷地に建てられている。
中には、文献から再現された、諏訪大社のお供えが再現されている。
つまり、シカの首とか、脳の和え物とか、干した皮とか、串刺しにした白ウサギが剥製や模型で並んでいる。
すぐ横の壁には、イノシシやシカの剥製(首のみ)がずらりと並んでかけられている。

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建物の意匠や間取り、ちょっとした仕掛けも、この「古き日本のかたち」を取り入れ、かつモダンな現代建築としての面白みも満たしたものとなっている。

たぶん守矢氏の方だろう、きちんとした説明をしてくれるおじさんもいる。
この方の説明がとても面白い。いささかしつこいし、こちらの興味や基礎知識なんて無視して持論を展開しているのだけれど、それでも親切心は伝わってくる。公営の史料館ではありえない、ある意味で粘りつくような解説なのだ。

要は、守矢氏にとって、現在の諏訪大社のスタイルは不本意であるということ。それが説明では何度も繰り返される。もちろん「明治維新後に伝統が途絶えた。今の祭は駄目だ」とは一言も言わない。今も神事の中枢に守矢一族はいるのだから。
でも、例えば五穀豊穣を祈る祭で供えられる供物が、野菜や米や酒となり、シカは首の剥製のみとなった事は、本当に悔しそうなのだ。

彼らにとって、まだ宗教は生きたかたちで信じられているのだ。
現代的、国家神道的にリニューアルされた祭に対する恨みつらみは本気であり、小さな史料館のメインに据えるに値する価値観なのだった。

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長野の秘神といえばミシャグジさま、そしてこの守矢氏はミシャグジさま信仰の中心でもある。だから敷地内にはミシャグジさまの神社もある。このあたりは本を読むなりWikipediaを読むなりすると、とても面白いのでおすすめです。

 

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とにかく、そんな風にひたすら”濃い”宗教のかたちを体験できたことは僥倖だった。
沖縄や四国の山奥でも、ここまであからさまに、そして現代の生活と密接に、しかも日本語で、古い宗教の心に触れることはないだろう。

あと千年もして、国と世界のかたちが変われば、守矢氏と諏訪の人々、つまりまつろわぬ神を信仰する者共が、天皇家に反旗を翻す可能性もあるかもしれない。
新興宗教の”熱心なひとたち”とは違う質の迫力があった。
これでオモシロB級スポットではないのだから素晴らしい。

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それが、神長官守矢史料館。
ここまで来れば、諏訪大社にも参拝したかったのだが、時間の都合で帰路についた。
世の中が平穏で妙なウイルスが蔓延していなければ、いちどは泊まってみたい土地ではある。距離だけなら日帰りコースになってしまうけれど、温泉もあるし泊まれば楽しい土地だろう。なんというか「文化が違う」。

 

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ところで今日は、概ね平穏だった。
気温は高く、運転中は窓を開けなければ暑いくらい。
世間はようやく自粛ムードになってきた。しかし、春や夏のそれとは違い、傍若無人な人が目立つ。というか、マスクをしない、群れて騒ぐ、といった行動を一種の意思表示として実行しているような「強気の人」があちこちにいる。
以前の「自粛」は、同調圧力が過剰だった。今日はまだ、そこまでの世間の目は無い。
そして、今の彼らは「空気」が定められていない状況で”アンチ・お利口さん”を演じているのだろう。マスクくらい、自然体で着ければいいのに。

お題「気分転換」

 

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