実は五十嵐大介氏の漫画は苦手だ。
好きな作品はあるし*1、新作が出たら読む。でも、あの「ナチュラル&スピリチュアルSF」な雰囲気にはどうにも馴染めない。科学と自然回帰を上手い具合に超常現象と混ぜてはいるものの、どうにも「南の島でヒッピーっぽい生活を送る元都会人」のような強引さが感じられる。
高品質で文句の付けようが無いけれど、自分の好みには合っていない、そういう作家さんなのだ。
で、そういう作品のひとつ、「海獣の子供」が映画になったというので観に行ってきた。
すごいすごい!映像が綺麗。堪能した。
緻密な原作の書き込みを、キラキラして壮大で、おそろしく見応えのある動画に仕上げている。音楽も、キャラクターの声や動きも素晴らしい。
観た直後は、「原作より好きかもしれない」と思った。アニメでこんなことができるのか。
でも今になって、どこか違和感が浮かんできた。
ちょっと書きながら考えてみる。
思い返せば、この映画、ずいぶんと説明不足な気がする。
原作漫画では5巻のうち、ずいぶんなページを費やして「海にまつわる伝承」が語られる。それが終盤のスペクタクルな、宇宙レベルのお話(予告編における”マツリ”)に収束する。
映画ではこの「人類史に見え隠れする海のお話」がすっぱりと省略されている。
代わりに主人公の女の子の心証が細やかに描かれていて、一見それなりの青春物語になっている。ただそれでは「海と生命と宇宙のお話」の収束部分が、唐突に、ほとんど説明無しに突きつけられる。
なまじ画面が壮大なだけに、それこそスピリチュアルなイメージ映像をひたすら見せられているような気になってくる。
そうなると「海で子宮で循環で星の命は溶け合って…」みたいな素敵なメッセージ*2、も、陳腐なオーガニック趣味に見えてくる。水族館マニアとスキューバダイビングクラブの人達が盛り上がっているところに、「クリスチャン ラッセン」氏のイラストを持ち込むようなものだ。詳しい人間だからこそ、その凡庸さに気づいてしまう。
つまりは、原作本5冊を読むのが前提の作品だったのかもしれない。自分はたまたま、その記憶があったから楽しめたけれど、予備知識無しでは「映像が凄い」だけの映画になってしまっていたかもしれない。
ところで「海獣の子供」は、ある種の「人間の想いの及ぶところではない」現象を描く作品でもある。なのでもっとバッサリと、人間部分の「いいはなし」を削ってしまって、「なんだかよくわからないけれど不思議な作品だったなあ」という、奇妙な余韻を残す映画にしても良かったのでは無いだろうか。押井守氏の初期作品みたいに、誰かの心に変な刺さりかたをする、つまりは「後に残る映画」になったかもしれない。
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そういう意味では残念な、でも自分にとっては十分に楽しめた映画ではあった。ただしどう考えても万人向けではない。
万人向けではない、という点では「わけがわからん」「怖い」と言って途中退出したお客さんが何組かいた事も、ここに書いておきたい。
映画が終わった後の周囲の雑談も、「思っていたのと違った」という声が目立つ。
たぶんこれは、さわやかな予告編と、久石譲の音楽、米津玄師の主題歌を前面に押し出したプロモーションが原因だろう。
気の毒だとは思うけれど、しかし個人的に「ハズレ」の映画であっても、後に奇妙な(心理的)化学反応を起こすこともあるので、若い人にはこれからもめげずに映画館に通って欲しい。孫を連れたお爺さんには、映画館か配給会社が何らかの謝罪をしても良いとは思うけれど。
総じていえば「綺麗に作り過ぎてしまった」ように思える。
鑑賞中にはその技術に感動させられていた。それはそれで素晴らしい事なので、今は他の人の感想を聞きたい。
映画の後の遅めの昼食は、「餅入りの肉ぶっかけうどん(温)」を食べた。
知人に勧められて行ってみたお店だった。
店内にはオリジナルメニューが多く掲げられていて、レギュラーメニューがよくわからない。お店のおばさんはトロロ芋入りのものだが、僕は苦手なので注文できない。今思うと、どうして餅入りの肉ぶっかけうどんなんてものを注文したのか、さっぱりわからない。
甘く煮た牛肉、汁も甘めで濃厚。
なんとなく、「すき焼きの後に餅とうどんを入れた」感じだった。
実家ではすき焼きの締めにはうどんを入れる。餅は入れたことが無いけれど、余所の家で食べた記憶がある。
讃岐うどん店、本当に“幅”がある。
ちなみに、餅入りのうどんなんてものを食べたので、夕方になっても全然お腹が空かない。夕食はヨーグルトとキウイフルーツ、その後に炭酸煎餅を食べて済ませた。経済的だ。
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*1:「魔女」は超おすすめ。
*2:素敵ではあるが、僕の好むところではない。そういうスーパーナチュラルな話は似非SFか出来の悪いファンタジーになりやすいので、どうしても警戒してしまう。