映画『あの日見た花の名前を僕はまだ知らない』

 

今日は1日、ファーストデイ割引で映画が安い。
半月前から、映画の約束をしていた。正確に言うと、友人夫婦の姪っ子さんを、映画館に送迎する約束をしていた。
姪っ子さんはまだ中学生なので、映画館に行くのも一苦労。僕が子供の頃も、映画というのは一大イベントだった。
そして送迎で済む筈が、「この映画は見ておく価値がある。あなたのような人が見るべき作品だ」と強く勧められ、まあファーストデイで日曜日なので自分も一緒に鑑賞する事になった。
それは特に問題無い。ただ、この作品『劇場版 あの日見た花の名前を僕はまだ知らない』は、TVで放映されたものを見ておかなければさっぱり楽しめないという。
『劇場版』は、TV版の再編集に追加カットを加えたものらしい。
そこでレンタルショップに行き、「全話まとめてレンタルサービス」という制度を利用し、主にお盆休みの夜を利用して、まとめて見ておいた。
WikipediaYouTubeニコニコ動画もチェックした。





最近の深夜アニメというものにあまり馴染みがない。もとよりアニメは好きなので抵抗は無いが、わざわざ借りたり、録画してまで見る習慣が無い。
でも『あの日見た花の名前を僕はまだ知らない』は、その高い評価も頷ける、佳作だった。
細かく見れば気になる点はたくさんある。
中心人物の幽霊の少女の、幽霊的能力がご都合主義であり、しかし幽霊の存在を証明しなければならない局面でも、そのご都合主義的能力を誰も応用しない。総じて、登場人物は事件に対して知恵を働かせない。
しかし気になるとはいっても、興ざめはしないところは脚本の力だろう。それにこれはファンタジーではなくて青春物語、感情の揺らぎが物語を動かす。
色々なものを抱え込んで焦げ付いている高校生の男女が、最終的には一皮むけて、寂しさを含んだまま次の一歩を踏み出そうともがく。
とにかく叫んだり泣いたり忙しいアニメ。ひりひりした青春群像が、真に迫る。これを生身のドラマでやられたら、きっと気持ち悪いだろうと思う。アニメーションの不思議。
ラストシーンなんて「くさい」といえば完全にそうなのだが、それでももらい泣きしそうで困ってしまった。
全体に、音楽のタイミングが上手い作品だと思う。ふっ、と音が消えて、場面転換と同時にエンディングテーマが流れるところは、大昔のトレンディ・ドラマみたいだが、それでも引き込まれる。
丁寧な作品、という印象。


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というわけで、それなりの感動を期待して、映画には望んだ。
今日の映画鑑賞には、もう一人の同行者がいる。姪っ子さんの同級生。初めて会ったが、快活で言葉遣いの綺麗な女の子。
2人ともアニメオタクにもマニアにも、そしてサブカル系にも見えない。きちんとした上等なカジュアルウェアを着て、しかし靴だけ安っぽいのが中学生らしい。変な表現だが、日陰者では無い。
前から知識としては知っていたが、最近は、オタク趣味が無くてもアニメを見るらしい。
気に入った作品は(アニメでもゲームでも)それだけ楽しむ。オタクではないから、体系的に、あるいは教養の為に同ジャンルのものを次々と消化はしない。
彼女らの話を聞いていると確かにそういう感じだし、映画館のお客さんもコスプレの人からお洒落な若者達まで本当に多彩だった。
劇場版限定プレゼント(ポストカード)目的の「絵に描いたようなオタクさん」も、もちろんいた。
とにかく、いつの間にかサブカルチャーの垣根は低くなっているらしい。







映画も、なかなか素敵だった。
TV版の最終話から1年後に、それぞれのキャラクターが回想を重ねる。TV版のカットが再編集され、あるいは描き直されて回想シーンとして示される。
そういう造りなので、おそらくTV版をリアルタイムで見て(2011年)、あるいはその頃にDVDで見て、そして映画では忘れていたデティールを再確認するのが、最も「気持ちの良い」鑑賞方法だと思う。
そうして鑑賞したら「うわぁそうそうこれだよこのシーン大好き」と盛り上がる気がする。
数週間前に見たばかりだと、やや「見たことある」感じが気になってしまう。色々と作りなおされている事はわかるが、駆け足のダイジェスト版に感じてしまうところは残念。
残念といいつつ、そしてどういう話なのかをわかりながらも、やっぱり感動してしまう。この『あの日見た〜』は、よくある「感動と涙」の物語を忌避する僕でも、きちんと引きこませる。
クライマックスの、テーマ・ソングが(効果的に)流れた瞬間から、映画館のあちこちですすり泣く声が聞こえる。僕も「サントラ買おうかな。買ったらいつでも泣いちゃうなあ」と思う。


1年を経た主人公達には奇跡は訪れないし、特にこれといった飛躍は無い。1年分の成長と、1年ではどうにもならない葛藤だけが示される。そこが気に入った。
こうなると、ほとんどDVDの総集編と同じなのだが、下手に追加要素を足さなくても十分なお話なのだ。劇場版だからといって「あの特別な夏」が再来したら、それは青春の大安売りである。そうならなくて良かった。
「いつまでも彼らの成長を見ていたい」と余韻を残しつつ締めくくる、それが青春モノの醍醐味だと思う。







泣きそうだったところを見られて、中学生2人にからかわれる。「このおにいさん(おじさんから昇格)は泣くだろうか」と、観察されていたらしい。
よくよく考えてみたら、彼女らは劇中の主人公達よりも若い。そして、映画で描かれた「懐かしい子供時代」は、携帯ゲームのある時代なのだ。
この『あの日見た花の名前を僕はまだ知らない』は、全体のトーンが、現在ハイティーンの子供達が懐古し、あるいは自分達の話だと受け取る、そういう雰囲気で統一されている。
当然ながら、そして物語の質とは全然関係ないのだが、僕の「あの懐かしい時代」ではない。
なるほど歳をとった訳だよなあ、と感慨に耽ってしまった。
「この子供達は、これから泣いたり叫んだりする青春を送り、ほぼ確実に僕よりも長生きする」そう考えると凄い事のように思える。




何が食べたいか聞いたところ、「モスバーガー」と言う。モスバーガーが何より好きらしい。そういえば今年はナンドッグを食べていない。あれはナンでは無いが、夏の小さな贅沢である。
でもせっかくなので、映画館の近くのダイナー風カフェに連れていく。こちらのほうが美味しいし、どうせ僕がおごるのだ。友人や家族とは行かない場所に行き、世間を広げるのも悪くないと思う。
僕はアボカドバーガーを食べる。付けあわせにポテトを少しと、ピクルスとコーヒー。
彼女らは特大のハンバーガーの他にも、別に頼んだ大皿のポテトやチキンも全部(僕の分も)食べてしまった。「モスバーガーより美味しい」と言ってくれた。良かった。
きっと代謝が良いのだろう。身体の中で、炭水化物がもりもりと水と二酸化炭素に分解されている、そういう感じがする。若さを感じる。
それから別のケーキ・カフェに移ってお茶をしながら(ベイクドショコラを食べた)、本や漫画の話をしたり、勉強のアドバイスをした。
僕のぱっとしない青春時代(泣いたり叫んだりの青春に縁遠い中学・高校生活だった)も説明した。もちろん映画の感想も話す。
そして別行動をとる。
2人は静岡の街で遊ぶ。僕は一旦自宅へ帰り、本を読み、ブログを書く(現在)。
夕方になったら迎えに行き、彼女らを家に送り届ける。




姪っ子さんの御両親には面識があるから大丈夫だが、今朝は、お友達のところに迎えに行った時に、御家族を驚かせてしまった。
「友達と映画に行く。もうすぐ迎えに来る」と親には話してあったそうだ。それが、正体不明の30代後半の男が、ミッフィーのTシャツを着て、プリウスに乗ってやって来たのだ。
御両親はもとより、弟さんと、お祖父さんお祖母さんが玄関に揃ってしまった。全員に挨拶をする。少し世間話(天気、車の燃費、津波の予想到達地域)をした。
説明すると長くなりそうなので「叔父です」と嘘をついた。姪っ子さんも「怪しい人でも、悪い人でも無いです。大丈夫な人です」とフォローしてくれた。
送り届ける時に、また不審がられると困る。とりあえず、着替えることにした。無印良品の穏当な開襟シャツと、普通の綿のズボン。ヒゲは伸びていない。
そこまで決めたところで、それ以外に出来る事が無いと判明した。
まあ仕方がない。どうせ友人夫婦の姪の友人なのだ。結婚相手の家に挨拶に行く訳ではないし、元より不道徳な事をしている訳ではない。きっと大丈夫。









そういえば、昨日の日記に関して、メールやメッセージサービスによる感想をたくさんいただいた。なぜかコメント機能を使ってくれない友人達。
どういう訳か、全てのメールとメッセージに、お菓子の画像を添付してあった。それぞれは他人の筈なのに。そういうのが流行っているのか。思わず夜中なのにバウムクーヘンを食べてしまった。
「結婚や子育てを経験してしまった自分には到達できない地平がある。それを大切にして下さい」という言葉が印象深い。
簡単にまとめると「お互い様」なのだろう。1人が全てをカバーできる訳ではない。しかしそれでも、他人の価値観を想像する意味はあると思う。限界があるとしても、想像力は有効なツールだと思う。

劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。Original Soundtrack

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(上) (MF文庫ダ・ヴィンチ) あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(下) (文庫ダ・ヴィンチ)

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