ケンジさん

数ヶ月に一回、静岡の小さな映画館からフライヤーの束が届く。
お茶を飲みながら観たい作品や気になったものをよりわけていくのは、休日の楽しみになっている。
実際は帰省してもなかなか映画館までは足を運べないのだけれど、フライヤーを読むだけでも面白い。
静岡で見逃しても、四日市や他の街で観ることもできる。
貴重な情報源となっている。


この前届いたフライヤーの中に、ちょっと気になった作品があった。
ボンボン』というアルゼンチン映画
映画の存在自体は、春に東京に行った時に知っていた。
Webで予告編も観ていて、なんだか好きになりそうな雰囲気だったのを覚えている。

この映画の主人公のおじさん(素人の起用らしい)が、昔の職場で一緒だった“ケンジさん"にそっくりなのだ。
フライヤーの写真では、特に似ている。

ケンジさんは、日系アルゼンチン(!)人で、僕より10歳位年上だった筈だ。
他にも日系南米人の人達はいたけれど、積極的に僕達と交流を持とうとしてくれた。
いつも明るくて、辛い仕事の時ほど楽しそうに働く姿が印象的だった。
働くのが本当に楽しそうで、単純作業の時には仲間達と足でリズムをとりながら踊るように動いていた。
逆に休憩時間には、なんだか物憂げに携帯電話を触っていたり、真面目そうな顔で仲間達と(時には僕とも)インターネットについて情報交換をしていた。
何度かバーベキュー・パーティに招かれたけれども、音楽がかかっている時はともかくとして、ふと気がつくと遠くでぼんやりと寝転がっていたりもした。他の大人の男達もそんな雰囲気で、その陰と陽の落差に驚いたのを覚えている。

日本の製薬会社の仕事は、清潔で安全、高収入な“それだけで楽しい”仕事だと彼らは言っていた。一番楽しいのは働かないでゴロゴロしていること。でも、一番辛いのはお金を稼げないこと、とも言っていた。
基本的に底抜けに明るい大人達だったけれど、何処か見えないところで苦労を重ねてきていたのだろう。
“モチベーション”と簡単には片付けられない、仕事観の違いを端々で感じていた。

四日市で、転職など考えたことも無い若い日本人の同僚達と働いていると、ふとケンジさん達を思い出す瞬間がある。
ブラジルやアルゼンチン人と一緒に働いたり、バーベキュー・パーティーに招かれたりしたことを同僚に話したことがあるけれど、ずいぶん驚かれてしまった。正直なところ、彼らにとっては想像の範囲外なのだろうと思う。

僕はどう転んでもケンジさんのような価値観で働くことは出来そうにない。
でも、働いている時の姿勢は見習いたいと思っている。


 

ボンボン』は静岡では7月7日から20日まで上映中です。


 

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