書類を抱えて西へ東へ

先月の終わりに仕事を辞めた。
そして今に至るも、ハローワークでの手続きが完了していない。
もちろん仕事探しや失業手当などは「仮」の登録書類で問題無く進んでいるのだけれど、健康状態に関する書類作業が手間取っている。

仕事を辞める理由の1つが、身体を壊した事だった。
軽めの鬱病と、神経性の胃炎。他にも色々と理由はあるのだけれど(書類上は“会社理由”での退職となっている)、辞める前から長く仕事を休んでいたこともあるし、まあ「身体を壊して辞めた」と判断されるのも仕方がない。実際、通院もしていた。気管支と咽喉の炎症が長引き、寝込んでいたために、ストレスも溜まっていた、というのが実情だ。だから咽喉炎が治ってから、心のほうも回復した。鬱病なんて、今思えばオマケみたいなものだった。治療は絶対に必要だけれど、順番としては後のほうになる。

でも、仕事を辞める理由に、いわゆる「こころの病」が含まれる場合、きちんと手続きをする必要がある。
障害者扱いというか、普通の人よりは大変な状況である、ということで失業手当の給付期間などで融通を効かせてくれるのだ*1

自分の場合、回復している状態で、ハローワークを訪れた。そのせいもあって最初の窓口では、この離職理由については特に問われなかった。
退職後の手続きでは、この最初の申請が終われば、あとは「次はこの書類を持って○日後に来て」といった指示がある。その後、失業保険制度の説明会などが済むまで数週間かかる。
自分の場合は、この初回手続きが終わり、最後の仕上げ的なところで、「あれ、こいつ精神病じゃん」と指摘され、「それならば医者に一筆書いて貰わなければ」という話になった。「今はもう全然大丈夫です」と言っても通用しない。実際、多少の面倒はあれど、手続きはしておいて損は無いと窓口担当者は言う。Webでも同じように書かれていた。

ところが、この病院とのやりとりが始まってからが長かった。
この手続きを担当してくれる職員A氏に、少しばかり問題があったのだ。要領が悪くぼんやりとして、いつも一言余分な若い男の子。ハローワークというのは完全な古い役所なので、紙の書類をクリアフォルダに入れて、担当者から担当者に渡して仕事が進む。そういう時にA氏は薄笑いを浮かべて「細かいことはいいっすよ大丈夫っす」と言う。書類を持ってきたスタッフの言葉を遮りながら、だ。
周りの人達も、A氏が動く時は手を止めて、目線だけを交わす。あいつ大丈夫かな、みたいな空気を感じる。書類作成後のチェックの時は元より、作業中のモニタも手が空いた人が後ろから確認している(かなり頻繁に指摘されていた)。
大人数の職場には、稀にこういう人がいる。穏やかに嫌われていて、ほんのりと疎外されていて、その状態も含めて仕事が回るようになっている。
そういう職場は、見ていればわかるものだ。
プリンターの操作ミスくらい他の人がフォローしてあげればいいのに(自分が口を出しそうになる)もはや見捨てられた状態。
もしくは、「A氏には勉強のために、この簡単な仕事をフォロー無しでやってもらおう」という方針なのかもしれない*2

そしてA氏は、手続きに関して、というよりも手続きが目指すゴールへの理解が足りない人間である。つまり、杓子定規というか、非効率を問題にしないタイプのお役人仕事をする。

具体的には、A氏に関わってから書類作業が激増した。「今、独り暮らしをしている事実がわかる書類って出せますか」みたいな確認が多い。他の職員だと「(経歴や収入の欄を見ながら)うんまあ大丈夫ですね」と口頭で済み、「最終的にパソコンで入力するのでこの欄は前回の書類を参照しますよ」と全ての項目を埋めずに済むところを、A氏はそういう気の利かせ方をしない。試しに「これ全部、書き写しですか?」と聞いてみたところ「大丈夫っすよ」と言ってくれた。なるほど大丈夫っすか、と項目(氏名の読みや住所)を埋めずに出したら、薄い鉛筆で空欄に書くべき内容が書かれて戻ってきた*3
ハローワークはなにしろ忙しい。全ての窓口でこんなやりとりをしていたら、24時間営業でも片付かない。だから他の職員は、かなり融通を効かせて紙の書類は片付けていく。

「辞めた前後は病んでいましたが、すぐに治ったわけですし、今も健康です。正直なところ、『仕事が原因で心身が病んだ』と言い切れません。医師の書類を用意するのは吝かではありませんが、どうせ“不健康な失業者コース”でも、よくて最低ランクのサポートでしょう。ならば、現状を踏まえ“健康で一般的な失業者コース”が、手っ取り早いと思いますよ」と(もう少し真摯かつ真面目な表現で)伝えても通じない。ため息を吐きながら「手続きが必要かどうかは、あなたには決められないじゃないですか」みたいな言い方をする。静岡弁でいうところの「やっきり」しちゃう人である。

とにかくA氏が「この書類に医師の所見を書いてもらって」と言えば、僕はお世話になった病院に行き、書類を書いてもらうことになる。

 

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困ったことに、この病院のB医師もまた、迅速な手続きには適さない人材なのだ。
いわゆる「おじいちゃん先生」で、診療にも処方にも問題は無いのだけれど、まず無駄話が長い。今日は「不景気と世相の乱れ」についてのお話があった。前回は「源平合戦の本質」だった。
それから、対外的な書類作成というものが苦手だ。
役所の書類なので、求められるストーリーというか、「普通に働いて問題無いことを医者が証明する」等の、定番の書き方があるのだと思う。それを全然気にしない。

のんびりした「おじいちゃん先生」だから、いつも看護師さんが後ろに立って、具体的な部分はこの人が進める。下手をすると薬の種類まで決めてしまうので法律上はどうかと思うが、でも看護師さんがいなければ何もかもが止まってしまうだろう。

書類についても、僕と看護師さんが(B先生の気分を害さないように気を遣いながら)説明や内容の検討を行う。
でもB先生は、「うーん、今は誰もが心を病みやすい時代だからねえ、よし『留意点』には、“残業ゼロの職場をおすすめする”と書こう!」と勝手に(ボールペンで)書き込んでしまう。

よくしたもので、「ハローワークからの書類を先生に書いていただきたいのですが」と受付の時に言っておくと、先生の手元には何枚かコピーされた状態で届く仕組みになっている。書き直しが存分にできる。
最終的には、看護師さんが鉛筆で書き込んだ内容を、B先生が清書する。その過程でコピー用紙が数枚無駄になり、B先生はハローワークのお役所仕事ぶりに怒り始める。
そして「備考」欄に、「人間関係が良い職場が望ましい」とか、「休みは多いほど良い」と書いてしまう*4


お金を払う時に、書類も渡される。「もし(役所的な)間違いがあった場合は、また来てくださいね」と、別の看護師さんがにっこり笑って言ってくれる。先日、書き直しに来院した時は、にっこり笑って同じ料金を支払った。誰が悪いわけでもないが*5、僕にとってはにっこりできない事態ではあった。

こういう病院に僕の心身を預けても大丈夫なのか。今のところ問題は無い。鬱病気味だった脳は、今はもう元気。胃の痛みも無くなったし、最近はよく眠れる。

 

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こうして書いたB医師の書類を、ハローワークのA氏に渡す。
すると20分くらい待たされた後に、「実は、もう1枚、別の書式が要るのです」と言われる。「A君そりゃないぜ」とは思うが言えない。
「それから、昨日の手続きは不要でした」とも言われる。「僕が傷つくから、黙っていればいいんじゃないか」と思うが言わない。
そういうやりとりの後に、ようやく書類が全て揃い、「ナントカ票が発行されたら郵送しますので、それまでお待ちください」と言われて待つことになる。
その後、土日挟んで4日ほど待った後に、ハローワークから電話がかかってきて「申し訳ないのですが…」と、追加の手続きやら、書き直し作業に出頭することになる*6。あっという間に6月が終わる。

 

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自宅とハローワークと自宅との移動は、晴れていれば自転車を使う。今日も自転車だった。
近距離ではないが、運動不足解消にはちょうどいい距離感なのだ。

しかし今日は、病院とハローワーク間を2往復した。途中に自宅があるので、最低限必要な距離の3倍くらいは走っている。
こうなると、運動不足解消なんて気分ではなくなってくる。趣味の自転車乗りならば短距離かもしれない。でも、書類のやりとりで自転車に乗っていると、なんともやるせない気分になる。「この往復には賃金が発生しそうだぜ」と思う*7

そういえば、書類のための通院では、1回で3500円くらいかかっている。これ、まとめて書いてもらったら(あるいは不要な手続きを無くしたら)少しは安くなると思う。

 

いくつかA氏の不手際があった。B医師の書類の書き直しもあった。
僕が制度を完全に理解し、強く意見していたら良かったのかもしれない。
でも、これはハローワークの手続きなのだから、その多くはハローワークの責任なのだろう。彼らが専門家で、周囲はその指示で動いた。

 

今日は他の職員、ちょっとリーダーっぽい人から、こんな事を言われた。
「えー、このたび、このように手続きが長引いた事についてですね、ハローワークに責任の一端があると捉えることもできますし、あなたのお気持ちもよくわかります。でも、そうすると再び、不満感やら責任やら始末やらの書類仕事が発生し、A君のみならずあなたも巻き込まれます。どうか、どうか堪えてください。実際の手続きは「仮」で進んでいるので、制度上の遅れや不利益はありませんので、それ以外はご容赦ください」
もう少し違う表現だったかもしれない。要は「ミスを公的に認めると、誰も幸せになれない」と言っているのだ。
自分としても、特に怒ってはいない。
どちらかといえば、A君の周囲にいる同僚さん達が怒っているように見える。同僚達の怒りに対応して、その上司らしき人が動いた、そういう雰囲気があった。
自分としては、今日のこの市内大移動で手続き完了ならば、文句は無い*8。簡単に言うと、今回の件は「災害」のようなものと捉えている。改善は必要だが、僕の仕事ではない。

それになにより、失業者というのは暇なのだ。
現時点でそれほど積極的に職探しをしているわけではなくて、数ヶ月はかかると腹を据えているから、こういう無駄足も社会との接点と考えれば価値を見出すことができる。でも、雨に降られたらそんな気分もまた違っていたかもしれない。

 

 

 

来週前半に、四国の某ハローワーク本館ロビーに武装した中年男性が立てこもったら、それは僕だ。そういうニュースを見たら「ああ、A君がやらかしたな」と思って欲しい。
B医師については、思い出すたびにほっこりしている。

 

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今になって、足の筋肉が痛い。なんとなく熱を持っている感じがある。自転車に乗って、市街を走っただけでここまで疲れるのは珍しい。どうせ疲れるのならば瀬戸内海の島々を走りたかった。

 

 

お題「どうしても言いたい!」

 

 

 

*1:大前提として、今は働ける状態である、というのが失業手当の要件となっている。働ける人間が仕事を探す期間の保険なので。

*2:他の窓口で、担当者が決まることはまず無いのだが、この病気関連だけA氏と僕の組み合わせは固定されていた。

*3:25分待ってこれかよ、と思ったが言えなかったので、ここに書く。

*4:「アートだ」って思った。

*5:医師の捺印書類に無料サポート期間は無いのです。

*6:訂正印にシャチハタ製品は駄目。ぼく覚えた。

*7:同じ日に2回も来院したので、B先生は驚き呆れ、お茶を淹れてくれた。病院で熱いほうじ茶を飲むなんて、人生でも滅多に無い経験だ。

*8:それに、「公的なミス」とした場合、A氏とまた書類仕事の嵐が発生するのだ。それは明確に、嫌だ。