隠れんぼ・鬼ごっこ

帰宅した際、門が開いたままだと気づいた。
鍵をかけている訳ではないし、たぶん朝にうっかり閉め忘れたのだとその時は思った。

洗濯物を回収するためにベランダに行ったところ、ウッドデッキの下に、人の気配があった。びっくりした。

人といっても、小さな女の子。まだ幼稚園でいうと年少さん位ではないか。夕方とはいえ暑い。汗びっしょりで、でも楽しそうに砂利の上で丸まっている。

近所の子供だろうか、見たことが無いなあ、どうしたものだろう、と考えていたら、裏庭側から女性が走り出てきた。母親らしい。それから小学校低学年くらいの男の子。

とりあえず「こんにちは」と挨拶する。挨拶は大切だ。
若い母親も元気よく「こんにちは」と言う。それから「どーも、ちょっと隠れんぼをさせてもらってましたー」と状況説明。男の子と、先ほどの女児を紹介される。

そういえば、近所に新しい家が建ったのだった。引っ越しの挨拶もあったはず。
よくわからないが、現在旅行中の僕の両親と、何か取り決め(昼間は庭を自由に使って良い、など)があるのかもしれない。でもまあ、そんな話は聞いていないし、驚いた事は確かだ。第一、こういう時にどんな対応をすればいいか、僕はよくわからない。

わからないなりに、友好的に会話をする。
「広いお庭ですね」とか「蚊が多いですね」と言われ、僕からは「お子さんは何歳ですか?」みたいな、そんな会話。やはり近所の新居の人達らしい。今日が「最初の探検」とのこと。
3人とも汗をだらだら流しているから、氷の入った麦茶を出した。

 

我が家は、庭が(近所の家に比べると)少し広い。手がまわらなくて雑草地帯のところもあるが、木も多いし遊ぶのには良いのかもしれない。
子供達がこの庭を“見つけだして”、今日の遊び場に定めたという。
新しい土地、夏の探検、荒れた庭、素敵なエピソードだ。

 

でも正直なところ、留守宅に入り込んで遊びまわるというのは、僕の感覚からすると非常識だ。都会とは言い難い土地だが、人の敷地に無断で出入りする(探検する)なんて聞いたことがない。でも全然悪びれたところが無くて、なんというか日常がぐにゃりと曲がっているというか、適切な言葉で注意も進言もしづらい。

とりあえず「駐車スペースには車も入ってくるし、他にも色々と危険なので隠れんぼには適さない。僕としては推奨も保証もできない。というか留守中は困る。この辺りの家々は勝手に入ったら怒られるか、人によっては警察を呼ぶだろう」と伝えた。それから「今は留守だが、明後日から家の主(僕の両親)が帰って来る。基本的には彼らの庭だと承知してほしい」とも言っておいた。
母親はにこにこして「ええでも大丈夫ですよ!」とか言っていて、なんとなく「手に負えない」感じがする。たまにいる、はきはきしているが話をよく聞かないタイプの人なのかもしれない。
手を洗いたいというから外の水道を貸したら、じゃぶじゃぶと3人で水を頭からかぶっていた。朗らかなことは確かだ。

まあいいや麦茶を飲んだら帰るだろう、と放置することにした。外で彼らの相手をしていたら、僕まで汗をかいてしまった。

 

そして今に至る。庭からは、その母子達の嬌声が聞こえてくる。今はぐるぐると走り回り、鬼ごっこをしているようだ。
買い物に行きたいので、その時に一声かけるつもり。でもたぶん「大丈夫っす」とか返されそうな、そんな気がする。ホラー映画でいうと、このあと我が家は乗っ取られるパターン。ちょっと怖い。さようなら日常。

 

 

 

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