それなりに忙しかったのになんだかほっとする、そんな不思議な勤務時間だった。
パートさんの一家は朝の3時に起きてテレビを点けたそうだ。みんなで今日がサッカーワールドカップ(日本対ベルギー)だと勘違いしていたのだろう。パートさんはもちろん仕事があるからその間違いに付き合うことなく、きちんと出勤した。
職場にトラブルメーカーがいる。
有り体に言って、社会人としての経験が足りない*1。勤め人としての基本を学ばずに若い頃を過ごし、若者ではなくなった頃にコネで会社勤めをスタートし、諸般の事情であちこち関連会社をたらい回しにされた後に、我々と共に働くことになった、そんな人だ。
悪人ではない。
モチベーションは高い、かもしれない。
しかし能力以前の基礎教養みたいなものがまるで足りないから、全体的に子供っぽい動機や雑な分析で独断専行する。思い込みと感情で奇妙な攻撃性を示すことも多い。
そして僕の「役割期待」としては、この人(会社においては先輩である)の教育も求められている。
その人が長期の出張に行ってしまった。
監督者としての上司がほとんど不在(僕達はTV会議やSkypeやチャットなどで日々の相談や報告を行っている)なために、彼の独断専行には歯止めが効きづらかった。そして少人数かつ新人の多い職場でもある。
どうしても1人の身勝手が周囲に影響しやすい。実際、彼以外のメンバーの疲弊が看過できない状況になっていた。
だからとりあえずしばらくの間、別会社へ“お仕事”に行ってもらうことになったのだ。
僕としては「教育係としては力不足だったかな」とは思う。半年、よく頑張ったけれど、結局のところ彼は変わらなかった。
しかし彼はいわゆる「無敵の人」である。
ルールよりも自分の都合、を当たり前にしている。
そして、とある“諸般の事情”により、いきなりクビになるようなことは無い。ルールを破っても生活は保証されている。
TVニュースに登場する「無敵の人」は生活破綻者ばかり。というか生活が破綻していて失うものが無いから無敵になれる。
しかし勝手をしても暮らしが成り立つのならば、社会人が無敵生活を止める理由は良心のみである。いや、本人が良かれと思っているのならば、無敵を疑う理由も無くなる。
「超・無敵な人」である。
そんな人がその長期出張に行き、不在となった。
もちろん数多くのトラブルの種や申請書類の不具合を残して行ったのでその対処は仕事としてやるのだけれど(遅刻の報告書に「遅刻理由:夜更かしのため」と書いてある…)、それでもまあ、平和である。
教養がまるで足りない、ということは学ぶことの価値を見出せない。それでもモチベーションは高いから、ものすごく間違った認識で他人に強く当たる。きちんと聞けば、継ぎ接ぎの言葉による「実は愚痴」「感情的なたわごと」なのだけれど、それでも直接に言葉を浴びるのは嫌なものだ。
僕はもう鈍感なおっさんだから言いたいことも言える。仕事モードならば「いや、それ違うよ」とか、平気で言ってしまう。
でもやっぱり、「変なことを言う人」が同じ部屋にいないのは精神的に楽だ。他の同僚達もほっとしていた。
だから今日は平穏。
ただ忙しいだけならば、そんなに心は疲れない。彼が帰ってきた時に向けて、今は雑事を片付けなければ。