映画『イリジウム』と、ハロウィーンドーナツ。

 
 
9月の後半から急に、疎遠にしていた知人友人からのメールが届くようになった。
ポテトサラダや、書籍や、ムカデの話題がほとんど。もうお互いに会う事も無いであろう人達が、僕の日記を読んでいる。そしてコメント欄ではなくてメールで意見をくれる。
ありがたい事だと思う。
映画の話題もある。昨晩は、5年ほど会っていない友人から「一緒に『エリジウム』を見ませんか」というメールを貰った。せっかくだから観ることにした。



第9地区』の監督の作品。第9地区では、南アフリカの人種隔離政策を、エイリアンと人間社会を使って描いた。
この『エリジウム』では、格差社会、特に医療格差を「スペースコロニーに住まう上流階級と、スラム化した地上の下流階級」を使って描いている。
舞台や時代から考えると、「ブレードランナー」の変形版ともいえる。
といっても全く社会派映画ではないし、哲学的な諸々も無い。マット・デイモン君が頑張ってアクションをする活劇映画。
要素を以下に書き出す。

  • 地球:環境汚染が進む。かつての高層ビルもぼろぼろで、スラム化している。デトロイト市とソマリアを足して2で割ったような風景。
  • エリジウム:懐かしの車輪型スペースコロニービバリーヒルズ風の緑あふれる理想郷。車輪の内側は宇宙に開放してあるが、遠心力で空気は漏れない。でも開いているから侵入者が絶えない。閉めればいいのに。
  • 下流の人達:地上のスラムに住んで、犯罪や日雇い仕事をして暮らす。貧乏。宇宙の「エリジウム」を見上げる人達。
  • 中流階級:存在しない。あるいは描かれない。ほんの少しだけ「工場の主任」風の人が出てきた。
  • 上流階級:エリジウムで不老不死の生活を送る。ビバリーヒルズ的なバルコニーとプールの世界で、パーティーばかりしている。でも邪悪な感じはしない。
  • 健康カプセル:正式名称は忘れた。ベッドに寝てスキャンをすれば、あらゆる身体的トラブル(白血病から顔面破裂まで)を解消する。エリジウムのあちこちにある。エリジウム市民の認証が必要。
  • 主人公:マット・デイモン。役名は忘れた。前科のある下流市民。思いがけず世界を揺るがすキーマンになり追われる身に。マット・デイモンはそういう役回りが多い。
  • ヒロイン:主人公の動機づけに重要だが、それ以外の役割は無い。白血病の娘がいる。
  • ハッカー:未来の貧民街といえばハッカー(クラッカー)。電子的なごまかしで財を築く。この種の人がいないと話が進まない。
  • クルーガー氏:傭兵的な立場の人。戦闘のプロ。上流階級の飼い犬として主人公を追う。飼い犬では終わりたくない、と常々考えている様子。どう見ても悪人。部下が2人いる。
  • 司令:エリジウム治安部門の総責任者。冷たい美人。事なかれ主義で穏健なエリジウムの偉い人達を一掃して、自分がトップに立とうと暗躍する。飼い犬に手を噛まれるタイプ。
  • CEO:治安維持用のロボットからエリジウムまで、この人の会社が作った。というわけでこの人の認証があればエリジウムは何でもできる。重要人物なのに、頻繁に地球の工場に視察に来る。
  • 工場:マット・デイモン君が働く工場。プレス機に鉄板を手投入する。労災事故が多い。マット・デイモン君も労災に遭い、そして解雇される。
  • 乗り物:正式名称は不明。オスプレイを未来風にしたような、凡庸なデザインの謎の飛行機械。空中浮揚から宇宙への往還まで何でもこなす。タイムテーブルの不都合は、概ねこの機械で解消する。
  • ロボット:地上にたくさん配置されている。治安維持を担う。程々に多機能で高性能だが、融通がきかない。


映画の内容としては、予告編の通りに、マット・デイモン君が死にそうな目に遭いながらも頑張って戦い、悪い人が死に、スラムの人達が救われる。
しかしどうにも話に集中できなくて困った。
格差を大きく描きたいが為に、上流階級のみ使える超技術の健康カプセルやスペースコロニーが登場する。エリジウムの住人達は、何不自由なく暮らしている天上人だ。
それほどまでに技術が進歩しているのなら、下流市民が不満を貯めこまない位の施策はできるのではないか。あるいは下流市民を封じ込め、必要ならば絶滅させられるのではないか。
警備ロボットが作れる社会に至った場合、まず(労災の多い)ロボット工場は自動化されると思う。少なくともプレス機は自動化する。CEOがノルマの引き上げを叫ぶ前に、できる事がたくさん有る。
技術的な特異点を越えている文明が、なお地上の人達から搾取するという昔ながらの方法を守る理由が、残念ながら示されていない。
不満を貯めた貧乏人という高コストな要素は、不老不死の段階に至る頃には何らかの対策が採られると思う。少なくとも、うっかりコロニーに突入されるような不手際は、成熟した技術社会にはそぐわない。



恐らくはストーリーを進める為の御都合主義なのだろう。しかし御都合主義にも程があるというか、ユートピアディストピアの接点を描くには、ひねりが足りない気がする。
日本のマンガやアニメだったら、設定資料や年表やスピンオフ作品で、「なぜ、それほど歪な社会に至ったのか」を描くと思う。
歪な理由は何でもいい。戦後の混乱、資源、モラル、宗教、何かの理由で(スペースコロニーが維持されるのと同様に)地球のスラムにも必然性があってほしい。
そして僕は(同行した友人も)、その種の設定資料や年表やスピンオフ作品が、大好きなのだ。オタク気質ともいえる。



とはいえ、アクション映画としては、普通に面白い作品だった。理想的な「ポップコーン・ムービー」。
死ぬべき人がしかるべきタイミングで死に、主人公の頑張りは報われる。コロニーの描写も豪華版で、こういう映像をいちど見てみたかったのだ。久しぶりにシド・ミード氏のデザインを見た。
開放式のコロニーは、小説でしか知らなかった。天井が無いぶん軽く安く作れるが、放射線対策が難しそうだ。
そういえば、宇宙にコロニーを作れる技術があれば、地上に同じくらい快適な街を作れるという技術的社会的ジレンマもまた、この映画では気にしていない様子だった。
ともあれ、格差を描くことに夢中になりすぎてSF的なジレンマなんて吹き飛ばす、そういう潔さは必要なのかもしれない。あえてそうしている感じもする。
でないと、解説だけで映画が終わってしまう。活劇にならない。





ミスタードーナツのハロウィーンドーナツ。美味しい。キティは不要。
そういう文句と感想を言いながら、友人と映画館を後にした。
そしてオーガニックなカフェでカレーを食べ、非オーガニックなミスタードーナツハロウィーン向けドーナツを食べながら、また映画の文句と感想を言い合う。
昨年いちばん美味しかった、さくさくしたドーナツは、今年も美味しい。コーヒーによく合う。しかしハローキティ化は望んでいない。
次は「ゼログラビティ」を観たい。宇宙ステーションで事故が起こる映画。




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