感情装置とは?

 

 

キングジム ラベルライター テプラPRO  SR250 ダークグレー
 

 


今日が、仕事始め。
特に問題なく、というか出社する人が少なく停止中の設備も多いため、のんびりと仕事ができた。

ラベルの印刷を頼まれたのでテプラの電源を入れたところ、液晶画面に「感情装置」の文字列が表示された。
「感情」で改行されて、「装置」が2行目、全体をダックスフンドの飾り枠で囲ってある。

 

ところでテプラとは何か?
この件でいうテプラとは、ニューカレドニアの港町ではなくて(あれはティプラが正しいと思う)、KING JIMの事務用品。競合する「ネームランド」より使いやすいとは思うが、それは人それぞれ、慣れの問題だろう。いわゆる「ラベルライター」と呼ばれる事務機器。

 

便利な機械だけれど、垢抜けないオフィスの主因となりうる、禁断の道具でもある。
使いたがる人(と職場)によっては、際限なく乱用される傾向があるのは、たぶん活字の魔力のせい。紙テープと油性マジックで行えば阿呆にしか見えない文章と作業が、テプラでは許されてしまうという不思議。同様に、パソコンとプリンタを駆使すれば立派な文書になると思い込んでいる老人や、Webページでまとめればそれだけで自由研究の完成度が上がると勘違いする小学生も、この活字の魔力に囚われていると考えていい。
そこに親しみを加えるべくポップ体を多様する残念な事例に関しては、今日は割愛する。
そういえばテプラでラベルを作るにあたり、絵文字と可愛らしい枠飾りをあしらうことで、オフィスに温かみと愛嬌を演出できると考える人も少なくないが、そういう人のことも今回は書かない。

とにかく、便利な機械ではあるが、センスまでは補ってくれない、それがテプラである。

 

すっかり話が逸れた。
職場のテプラは、電源を切る前のデータを保持している。だから、今日のように、誰かが入力し、設定し、おそらくは2014年末に出力したであろう「感情装置」の文字列が、残っているのだ。

不可解な事態である。
無機化学と電気工学を駆使する職場において、どういう理由で、こんな内容の(ダックスフンドの囲い付きの)ラベルを使うのだろうか。
ちなみに、セットされていたラベルテープは「青色(文字色:白)18mm」だった。

そういえば、この職場に来てから数ヶ月が経つが、最近はわりと、少なくとも精神的には楽になってきた。最初の頃は「もう駄目かもしれない」とばかり考えていた毎日だったけれど、12月の後半からは「身体は辛いし、仕事は難しいが、気分的には大丈夫」と思えるようになった。
密かに設置された「感情装置」なるハイテク機器が、有効に作動しているのかもしれない。21世紀は科学の世紀であり、この職場はトータルサイエンスによって社会に貢献する(と社員手帳には書かれている)のだから、それくらいは当然かもしれない。働きやすい、素晴らしい職場である。

 

福利厚生としての感情装置についてはよくわからないけれど、とりあえずその「感情装置」ラベルを、1枚だけ出力してみた。
ダックスフンドの飾り枠が無ければ、そして文字がもう少し滑らかならば、前衛芸術の展示に添えても似合うのではないか。
なんとなく、「ゼロ年代を代表する女流作家の新境地」という印象も、この四文字からは感じる。

何処の何に似合うかとは関係なく、このラベルは使い途に困る。
なんでこんなものを出力しちゃったのだろう、と後悔するけれど、かといってゴミ箱に捨てるのも惜しい。
だからとりあえず、新しく設置する測定器の裏側に貼ってみた。故障しない限りは、5年間は動かさないであろう、大きくて重い、ステンレス製の装置。いつか誰かが気づくだろう。

あるいはもしかすると、と今になって考える。
このテプラこそが、「感情装置」なのではないか。何らかの感情を駆動させる電気じかけの装置、それがテプラ。それを手にする人は“自主的に”ラベルを作り、貼りつける。そうしたくなるように設計され、世に放たれた。
おそらくテプラには意志も目的も無い(ウイルスに意志や目的があるだろうか。DNAには?生態系には?)。ただ装置として、そこにあり、駆動する。
そういえば、昨年の終わりに、それなりにまとまった数の人達が退社した。彼らのなかに、この事に気づいた人がいたと考えるのが自然だろう。この残されたデータは、警告か、それとも別の意図によるものか。
一般に、ダックスフンドは奴隷の暗喩とされる。我々がテプラを使っている、という認識そのものを改める必要があるのかもしれない。
ただラベルだけが増えていく、それだけは確かで、たぶん明日も明後日も、誰かがテプラを使うだろう。妙な文字飾りと枠と絵文字を駆使して。

 

 

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