別れの気配

僕は社外からの出向者で、いつか静岡に戻るということは、職場の誰もが知っている。
もう1人、同じ出向中の同僚がいて、最近は2人で仕事をすることが多い。

僕達の出向期限は(だいたいは)判っているので、時々冗談のネタにすることがある。
手に余る(イヤな)仕事を任されそうな時などに、
「でも僕はもうすぐ消える人間ですから、別の人に経験を積ませたほうが...。」
などと言ってみたりする。
当然、相手もこちらに合わせて会話が続いていく(結局、仕事は受けざるを得ない)。
“ちょっと特殊な立場”を利用した軽い冗談。
馴染んできたからこそ言える、つまらない軽口だ。

 

少し前に、上司(というか、ヒラ社員のリーダー格)から呼び出されて、注意を受けた。
僕が「静岡に帰る」と言うたびに“泣いたり悲しんだりする同僚がいるので、仕事に差し支える”との事だった。
彼らの心情を理解し、不用意な発言は控えるように、と強く言われた。
何時の間にか、“夏が来る前に僕は静岡に帰る。”という噂話が流れていたようだ。
しかも、“本人の意思を無視した無理矢理な人事”という尾鰭まで付いていた。

ちょっと驚いている。
自分に関する噂が耳に入らなかった事も驚きだが、
影で泣いている人がいたなんて、全く想像の範囲外だった。


工場内での異動は多いが、市外への転勤は殆ど無いので、人の出入りに慣れていない職場であることは薄々感じていた。
同期の状況は誰もが把握しているし、もし都合で辞める人がいたら大騒ぎになるくらいだ。
割と大きい工場だけれど、皆の結束というか、家族意識(?)は強い。
結婚して退職した人も、部活(部活動が盛んなのだ)には参加したり、時々遊びに来たりもする。

何年経ってもあまり馴染めない雰囲気ではあるが、理由も含めて何となく理解は出来る。
僕も初めからこの四日市工場に居れば、彼らのようになっていたかもしれない(もしくは半年で辞めていただろう)。

でも、いくらなんでも、泣くというのは尋常ではない。
有難くも思うけれど、(申し訳ないが)視野が狭いとも思えてしまう。

 

 

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