高松市塩江美術館

特段の理由も無く、「高松市塩江美術館」に行ってみた。

瀬戸内国際芸術祭2019の夏会期が始まったばかり。猛暑だけならともかく、にわか雨もあるので島に渡る気分にはなれない。
フェリーと自転車が駄目ならば車で行けるところ、とGoogleMapを眺めると、山のほう、香川県でいうと南側*1が未開拓だと気づいた。

 

生活していると山奥の印象だが、普段の生活範囲から数十分で行けてしまう範囲に温泉や古刹、それに美術館が点在している。
というか、いつも車で少し山側まで行って「この先はお店などが無いだろう」と引き返す辺りから少し奥に行けば、渓流と棚田と大きな溜池の風景に出会える。川沿いの道は見た目にも涼しい。

 

この塩江美術館は、おそらくは高松市美術館の分館的な扱いなのだろう*2。小さくて、収蔵品も少ない。
というか、塩江という土地ゆかりの洋画家(熊野氏)の寄贈品だけを常設展としている。熊野俊一氏の作品を納めるための美術館なのだ。

 

外から導いた光を使った常設展はなかなか見応えがあった。地中美術館のモネと同じく、ある種の作品は自然光の下でこそ映える。

熊野氏はいわゆる昭和の洋画家である。
つまり、師範学校を出て教師になり、数年後に上京して青年画家グループに入り、二科展か何かを受賞し、その後に洋行をする。洋行のたびに作品を描き上げ(だからほとんどがヨーロッパの風景だ)、東京の百貨店や画廊で展覧会をする。そして21世紀に入ってから没する。

正直なところ自分の趣味ではない。でもほとんど他の観覧者がいない小さな展示室で、解説もない普通の油絵、モンマルトルやセーヌ川の風景絵をぼんやり眺めるのは気持ちがいい。前述の通り自然光の明るさも良い感じ。

展示室の一番奥に、いきなり図書館の閉架みたいなごついベージュの金属製オープンラックが置いてあったのには驚いたけれども。香川や四国の美術館に関する資料、図録がどっさり置いてある。いきなり現代アートが始まったかと思った。

 

美術館の外は遊歩道がある。小川が作られていて、「蛍の里」としても売り出している。行政の手がける「蛍の里」の常として、ここも手入れが中途半端で掲示ばかり目立つ。

 

うな丼の未来 ウナギの持続的利用は可能か

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しかしすぐそこは渓流が流れ、山が迫る土地なので、散歩していて気持ちが良い。“下界”より気温もいくぶん低いかもしれない。


ほとんど案内が無いけれど、野外に彫刻や立体作品もいくつかある。
建物も展示物も、おそらくは一旦寂れてからリニューアルしたのだろう、と推測できるタイプの痛みかたをしている。建物のつくりも、バブル末期の様式が見てとれる。内装はともかく、建物のかたち、鋭角に交わる部分が多い配置が、TMネットワークのPVに登場しそうな感じだ。

 


こういう建物は、どんな田舎にもある。山道を走っていると、市街地より凝ったかたちの公共施設がどーんと現れるのだ。
ハコモノ”とは呼ばれるが、箱形ではない場合がほとんど。数十年を経て、曲面ガラスには蜘蛛の巣が張られ、多角形の多目的室は「郷土ふれあいサロン」に変わり、掲示物は後付けされた100均のコルクボードにピン止めされる。
当然ながら、この美術館も、平成という経済的転落を体現している。贅沢なのか貧乏なのかよくわからないけれど、コンクリートの塊みたいな街中の美術館とは違う趣きはある。

 

 

 

 

さて企画展は「山口一郎展 トリとりどり」だった。
山口一郎という人は全然知らないが、展示はとても面白い。ちなみに撮影OKだった。


大判の段ボールで部屋の内壁を作り上げている。そこに鳥の線画がひたすら描かれている。
場所により密度も違うし、鳥の種類も様々。でも皆、同じ方向に飛んでいる。
静かな音楽が流れるなか、この鳥達の飛ぶ方向に抗うように歩いていく。

 

鳥という生き物は目に存在感がある。特に迫力がある絵でもないのに、これだけ目があると気になってしまう。小さくプリントしたらミナ・ペルホネンのテキスタイルになりそうな絵、でもそれが大きく大量に描かれていると、印象が違ってくる。
鳥好きな人ならたまらないだろう。
逆に、鳥が苦手な人は、こういうイラストみたいな絵でも駄目かもしれない。リアル云々は関係なく、本当に鳥だった。

 

こういう作品は大好きだ。
ちょっと予想外に良い展示で、これだけでも「儲けもの」だったとほくほくしている。

 

 

 

瀬戸内国際芸術祭2019 公式ガイドブック

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SAVVY(サヴィ)2019年8月号[雑誌]
 

 

 

帰路、この美術館から数分のところにある道の駅に寄ってみた。
売店(土産や農産物を売っている)はともかく、隣接した日帰り温泉んは全くやる気が無い。温泉は営業しているけれど飲食店は全て閉まっている。スズメバチは飛んでくるし、蚊柱だと思ったら本当の(血を吸う)蚊の群れだったりと、ちょっと廃墟じみた場所だった。土日はまた違う雰囲気なのかもしれない。

一瞬だけ瀬戸内国際芸術祭に行くことも考えた。家事をしていたらフェリーの時間に間に合わないことがわかり、ちょっと後悔していた。その後、家事に邁進し、そして美術館にも行けたので、それなりに良い一日だったと思う。
では寝ます。おやすみなさい。

 

 

Pen(ペン) 2019年 2/15号[いまこそ知りたい!アートの値段。]

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“お金”から見る現代アート (講談社+α文庫)

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お題「海派? 山派?」

お題「ひとりの時間の過ごし方」

お題「今日の出来事」

今週のお題「夏休み」

*1:静岡県中部の人間にとって、山側が南は奇妙に思える。未だに、理屈ではわかっているけれど脳が対応できていない。

*2:案内表示の修正跡から、平成の大合併が影響していると考えられる。