行列のできる讃岐うどん店「はりや」

仕事先で勧められた「行っておいて損は無い讃岐うどん店」*1である、「はりや」に行ってきた。

ここは行列が当たり前のお店。
平日の11時開店の時点で、もう並んでいた。カウンターだけの店で、店内に入る限りは席の後ろに人が並んでいく。回転は速いが(なにしろうどんなので)これはなかなか落ち着かない状況だ。

 

多くの人が注文するのが「ざるうどん」と揚げ物の組み合わせ。
「鶏天ざるうどん」または「いか天ざるうどん」そして「天ぷらざるうどん(野菜天)」が有名らしい。僕は「イカ天ざるうどん」を注文した。

確かに美味しい。
つるりぬるりとした滑らかな麺は、かなり強いコシがある。多くの人が讃岐うどんに求めるものがハイレベルで用意されている感じ。
イカの天ぷら(ゲソ)も揚げ立てで、ちょっと他では食べられない贅沢さ。汁は自分の常識からすると甘いが、これは「冷たい手打ち麺=蕎麦」文化で育ってきたので仕方がないところだろう。

とにかく本当に美味しかった。普段の安くて手軽な「セルフ式」に比べると少し高いし(でも750円でお腹いっぱい)、好き勝手にトッピングやサイドメニューを選べるわけではないけれど、これはこれで讃岐うどんのひとつの頂点だと思う。なるほど「行っておいて損は無い」店である。

 

 

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しかしこの店、独特の緊張感がある。
店主さんの愛想は良い。
他の店員さんも、客に対応している時はきちんと笑顔と気遣いが伝わってくる。でも、それ以外の時間が、ちょっと変だった。

店員さんは4人と店主さん、全員がカウンターの内側にいる。
麺の投入タイミング、茹で上がった麺の仕上げ、盛り付けの大半、お客さんへの注文や席の指定などを全て店主さんが行う。店員さん達はそれぞれの受け持ちがあって、天ぷらを専門に揚げる人、麺を大鍋に入れてタイマーをセットしかき混ぜる人など、かなり専任化している。
緊張感の原因は、この店主さんひとりが状況のほぼ全てをコントロールしている事にあるのだと思う。店主さんの指示があるまで他の人達は基本的に動けない。指示通りに動いても小さな修正指示(返答が小さかった、等々)がある。店主さんが常連さんに冗談を言う時には皆が一緒に笑うが、それ以外には店員同士で話すことはほとんど無い。ちょっとした手伝いをした時の「ありがとう」「いえいえ」みたいなやりとりすら無かった。忙しすぎて喋る暇が無いということでもなくて、単に店主の指示が無い時は黙って待つことになっているらしいのだ。

 

こういう雰囲気には覚えがある。子供の頃に入っていたスポーツクラブがそうだった。
明るくて優しくて有能な監督が全てをコントロール下に置いていたのだ。選手のポジションやタイミングなどは当然として、仲間への掛け声から水分の補給まで指示があった。得点時の喜び具合まで監督の基準があった。
自分は選手としての活躍はほとんど無かったけれど、兄がよく試合に出ていた。中学生や高校生になってからもチームの試合を眺めることが何度かあったけれど、正直なところ「子供が楽しむスポーツ」とは程遠い雰囲気だった。強かったけれど「監督のためのチーム」だった。
あの違和感は今も強く印象に残っている。

 

 

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うどんそのものは本当に美味しかった。
イライラした店主が店員に小言を言うような嫌な店ならばもっと酷いところはいくらでもある。だから不満と言うほどのものでもない。
ただ、店主だけが袖無しの上着*2を着て強く元気に細かな指示を出して、他の店員が静かに従う、というあの状況がどうにも落ち着かなかったのは嘘ではない。店主の明るい気配りが全体として殺伐とさえ言える雰囲気に繋がってしまっているのだ。
すぐ後ろに行列の人達を感じながら、美味しいけれどなんだかせわしない食事をする自分達も含めて、全体が店主の「システム」に組み込まれているような居心地の悪さ、たぶんそれが緊張感の元だろう。

そういう意味でも希有な店だったといえる。「こだわりの手打ち麺」といえば東日本に散在する威張り散らす蕎麦屋をまず思い出すが、今日のこの店のようなスタイルもあるのだと知ったことは、ひとつの収穫だったかもしれない。


ここまで書いていてアレだが、総じて良い店であることは保証する。行けば感心すると思う。「とにかく美味しい讃岐うどんを食べたい」という人には自信を持って勧められる。

 

 

お題「今日の出来事」

*1:高松の人達は目的別に3種類くらいの「讃岐うどん店おすすめリスト」を持っていて、それぞれのリストには5件ほど序列付きで登録されている。そのうえで「その辺のてきとうな店」にも行く。

*2:余談だが、袖無しの服を着ている料理人がどうも苦手だ。とても不衛生に思える。