タタール・チキンの夜に

自宅近くの中華料理店で夕食を済ませた。
家族が出かけていて、僕は残業で、しかもその中華料理店が、今週末で閉店だったのだ。特に好きな店というわけではないけれど、子供の頃から知っている「商店街の中華屋さん」としての親しみは感じている。
それに安くて、量が程々なのも有り難い。安くて量が多いよりも、適度な量で、その代わりに小さな箸休めや小鉢が付くほうが嬉しい。そういう歳になってしまった。

この店ならではのメニューとして、「タタール・チキン」という品がある。他では見たことが無い。かといって、客が皆、それを注文する名物料理という訳でもない。ただメニューの下のほうに、「酢豚」や「玉子とキクラゲの塩炒め」とともに、「タタール・チキン」と書かれている。680円で、なぜか「スープ付き」。なんだろう、と思いながらも、今まで食べたことが無かった。

今日はこの「タタール・チキン」が、定食のホワイトボードに書かれていた。つまり「タタール・チキン定食」だ。これも最後かと、注文してみた。

タタール・チキン」とは、平たく揚げた鶏胸肉の唐揚げに、甘酢あんとタルタルソースがかかった洋食風のものだった。なるほど「タルタルソース」という訳か、と合点がいく。
しかし僕の想像する「タタール人」は、鶏の唐揚げにタルタルソースをかけて食べない。そういう面では、タタール的な要素に欠ける。
でも美味しかった。長崎かどこかの郷土料理にありそうな品。甘酢あんかけにケチャップが使われていなかったら、尚良かった。

 

ところでタルタルソースだが、ピクルスに加えてオリーブの微塵切りを入れると、なかなか面白い風味が生じるのでおすすめ。料理上手っぽさの演出としては、手軽だと思う。
市販のタルタルソースに、缶や瓶詰めのオリーブ(赤ピーマンが詰めてあるものが、彩りとしては良い)を刻んで混ぜていく。好みでオリーブオイルも加える。小袋入りのソースを増量する感覚で、どっさり加える。
僕はマヨネーズが好きではないため、自分用には作らない。いわゆる「お客様に喜ばれる工夫」の1つ。たぶんオレンジページ暮しの手帖で学んだ知識。魚のフライに合う、と思う。

 

タタール・チキン定食」は、ご飯、タタール・チキン、ミニサラダ、中華スープ、ザーサイと柴漬け、モヤシとメンマとネギの和え物、そして杏仁豆腐の組み合わせだった。食後にサービスとして、半分に切った春巻きと烏龍茶をいただいた。写真は撮り忘れた。

 

たぶんこれが、人生最後の「タタール・チキン」。
自分では作らない、食べたいとも思わないだろう。何気なく遭遇した一期一会に、世界の不思議さを感じた夜だった。