幹部用リストから削除願います

夕方にパソコン仕事を進めていたら、懐かしいところからメールが届いた。
四国時代の勤め先で担当していた、取引先のA社が送信元。

なにしろ小さな勤め先だったから、退職後も「何かあると分かる人がいない」可能性もあって、僕の仕事用メールアドレスはそのまま残してもらっていたのだ。取引先には挨拶はしたけれど、退職後しばらくは間違えてメールが届くことがあった。幸い、その後に困ったことは起こらなかったが、メールアドレスは今も生きていて、送受信の設定もそのままだった。

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退職・転居後は、取引先A社(元取引先)とは、小さな仕事を僕個人で請けることになった。今も数ヶ月に一度は連絡が続いている。とはいえメールではなくてテレビ会議やチャットが基本で、仕事用メールアドレスも、個人のメールアドレスも出番はない。
大きな仕事はたぶん来ないし、もう二度と実生活で顔を合わせることもない相手だが、かつての四国暮らしを思い出す懐かしい間柄だ。

そんな珍しい相手からのメールは「新型コロナ感染の対応について」だった。
僕はBCCに名前が入っている。
内容はわりとショッキングなもの。
「社員に感染者が出た。現状で命に問題はない。
今後の対応を行いたい。保健所・医療は副社長が対応している。取締役と管理職はリモート会議前に家族との隔離を願う。社員にはすぐに連絡を。パートには慎重に伝えよ。支払いはストップするので、渋る取引先には行政を頼るよう誘導せよ」

つまり「社内で感染者が出た」という第一報のメールだった。
おそらく幹部用のリストに、どういうわけか僕のメールが混じっている*1

これは、僕が読んではいけないメールではないか。
情報統制がめちゃくちゃな会社である。

そういえば僕が最初に会ったときに、ようやく社員全員にメールを使わせるようになっていたのだった。それまでは基本FAXで、メールといえば代表メールを専用パソコンで読む形式。そう考えると、休日に緊急でメールが回り、CCには社外取締役や弁護士先生が入り、BCCに幹部全員や会長のアドレスが並ぶのは、素晴らしい進歩ではある。まあビデオ会議の使い方については僕もレクチャーをしたのだが。

とにかく急いでA社に連絡をする。
昔の名刺データを漁って*2総務部員の番号を探し出して電話をする。電話には出たが「口頭ではわからん」というので、「幹部向け社外秘メールが僕のところにも届いている。BCCに含まれているから、リストを確認してください」と文章で送った。

先ほど返信が来た。
「四国と静岡、遠く離れていて実際に会っていませんから、あなたは濃厚接触者ではありません。ご安心ください」
駄目だ、混乱している。

仕方がない。僕だって彼らの立場だったら大混乱だ。
社員が命に関わる病にかかり、会社は数日はストップしなければならない。人に会う仕事の人はなおさら困るだろう。
通信回線越しに小さな仕事をやりとりする人間がコンプライアンスやセキュリティを訴えても耳に入らない状況なのだ。大変なことである。

でも僕としても困る。見てはいけない文書を手に入れてしまったのだ。
しかも「取引先対応」まで書かれている。
明日にでも電話がかかってくるだろう。「7月分の支払いについて相談があるんですが…」と言われたときに、どんな顔をすればいいのだ。
「オーケー。行政にギャラが来ないって相談すればいいんだね」と先回って言うのもいやらしいし。

今の感染者数だと田舎でも「知り合いの勤め先関係」や「友達の親戚」あるいは「町内の、あの家」レベルに感染者がいるという。なるほどねえ、と変に感心したし、とても怖くも感じる。明日は我が身である。

 

 

 

*1:リストを見ると、あと2人ほど社外の人間がいる感じ。

*2:全部デジタル化してある。便利な時代だ。

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