戦争と妖怪

けんかはよせ 腹がへるぞ―水木しげるの妖怪名言集


水木しげる氏が亡くなった。
残念、ではあるのだろうけれど、でもただ悼むのもなんだか変な気がする。希有な人であった。
戦争の漫画も、それから妖怪の漫画も、どちらも世界の、暗い側面。子供の頃によく見た「妖怪大図鑑」みたいな本は本当に怖かった。
しかしその暗さをそのままに、とぼけた、そして肩の力を抜いた表現で伝え続けることの凄さは、大人になってからしみじみ実感することになる。
漫画には世相だって盛り込んでいたけれど、例えば「平和」や「自然保護」や、今の時代ならば「反原発」だろうか、そういう善意をもっと前に押し出して語ることだってできただろうに、そういう事は一切しない作家だった。ただ自分のスタイルがあり、大上段に構えて意見を押しつけるようなことは潔しとせず(あるいは下品だと考えていたのかもしれない)飄々と下級兵士の、あるいは妖怪の立ち位置の「世界」を描く、これはなかなかできることではない。
一時期、どういうわけか「ココロが楽になるエッセイまんが」コーナーに並んでいたことがあったけれど、僕としてはそれはもう全然違う、ある意味で対極にあるのだと考える。

たぶん、わりと広い世代の人達に、彼の漫画のエッセンスは残り続けるのではないだろうか。日本中に偏在というか、もしかすると価値観の「核」にちょっとした色合いを付ける記憶という点では、他の大御所作家よりもその力は強い。少なくとも僕にとってはそうだ。

 

 

劇画ヒットラー (ちくま文庫)

劇画ヒットラー (ちくま文庫)

 
劇画ヒットラー

劇画ヒットラー

 

 

実は、水木しげる氏を遠くから眺めたことがある。
静岡の商店街で、お祭りがあった時に、人を何人も連れて、どんどん食べ物を買い与えて、自分もまた食べまくる、そんな片腕の老人がいた。その時は気づかなかったが、彼こそが水木氏だったのだと後で聞いて(商店街でも話題になったらしい)、ああそうかと、なんだか嬉しくなったのだ。月並みな言い方だが、妖怪じみている。

本当に、昭和がまた一つ遠くなる。
なんだか考え込んでしまう、でも何を考えるのが適切なのか、さっぱりわからないという、変な感覚が今は続いている。

 

村上さんのところ

訃報と言えば、先日、「フジモトマサル」氏が亡くなった。
僕はこの人の絵が大好きで、挿絵集は今もたまに引っ張り出して眺める。あまり作品集的なものが無いけれど、幸いなことに僕の好きな作家や企画に関わることが多く、目にする機会は多かった。
たぶん、まだ若い。とても残念で、悲しい。同じ時代を、近い感覚で共に生きる人だと思っていたのに。先を見てみたかった。

 

夢みごこち

夢みごこち

 
にょにょにょっ記

にょにょにょっ記

 
聖なる怠け者の冒険 挿絵集

聖なる怠け者の冒険 挿絵集

 

 

t_ka:diaryは、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。