転勤や転職をして、しばらくすると必ず問われる質問がある。
「得意な料理は何ですか?」と聞かれる。当たり前だが、大抵は「料理はしますね。学生時代から自炊は苦にしてませんでした」みたいな雑談からの流れで、この質問が出る。
ここで何でもいいから答えれば、「わあすごーい」となり、次の話題に移るか、そのまま誰かの得意料理エピソードが開陳される。まさに雑談。
しかし僕は、こういう(半ば無意味な)質問が苦手だ。数秒間の間、考えこんでしまう。そして「なんでも作りますよ…」みたいな、曖昧で反応に困る解答をしてしまうのだ。
だってそうじゃないか。ある程度、家事として料理をこなしていれば、得意も不得意も無く何だって作れるようになるのが普通だと思う。それができない人は、自炊から離れていく。僕はビーフ・ストロガノフを作った経験は無いが、レシピがあれば、まず間違いなく完成させられるだろう。家庭料理というのは、そういうものだと思う。
その日の気温湿度や材料の具合から水加減を調整して…といったものは、プロに任せればいいと、小林カツ代さんも言っていた(飛田和緒さんも言っていた)。
しいて言えば、果物のコンポートは得意といえるかもしれない。目分量で砂糖を加減して、適当にスパイスを加える。少なくとも自分では美味しいと思えるものが出来上がる。
しかし残念なことに、仕事の場では「ぼくは果実のコンポートが得意です。休日には蕎麦のクレープと手作りジャムでほっこりします」という答えは求められていないような気がする。自己紹介を含んだ雑談としては、いささかマニアックであり、異色すぎる。たぶん、「ややこしいおっさんだな」と思われてしまう。それは本意ではない。要するに、誰もがku:nelの読者ではない、ということだ。
常備菜といわれる類の品を作るのは好きだが、これも話すと長くなり、一言で答えるには難しいような気がする。
今日は昼休みに、この質問が投げかけられた。やっぱり少し考えこんでしまった。
「魚がさばけます」と答えて、そこから話が繋がっていったので、自分としては及第点だったと考えている。きちんと語る場ならいくらでも喋れるけれど、雑談となると言葉に窮してしまうあたり、とてもオタクっぽいと思う。
今年から来年にかけて、様々な職場を転々とすることが予想されている。だから今のうちに、見栄えがして、話題が展開できて、それほどマニアックではない料理をひとつマスターしておこうか、少し本気で考えている。
ローストビーフとか、どうだろうか。豪奢に過ぎるか。餃子かカレーが無難だろうか。
反対に、「苦手な料理は?」と聞かれたら即答できるのだけれど。
苦手な料理は、揚げ物。後始末が面倒だから。嫌なもの、苦手なものは列挙できるが、好きなものは簡単には語れないのだ。
そういえば、「好きなケーキ屋は?」と聞かれても答えに窮する時が多い。いちばん正直な答えは「時と場合による」だが、たぶん質問者はそういう言葉を望んではいないのだろうと思う。時と場合を指定してくれたら楽なのだが、そんな形式の雑談は(少なくとも職場での雑談では)滅多に無い。残念なことだ。