家族のおでん、自分のおでん、他人のおでん。

冬の星座が早い時刻から見えるようになった。
おでんの季節だ。

住み始めてから知ったが、香川県はおでんをよく食べる土地だ。うどん屋さんのサイドメニューにもたいてい置いてあるし、ラーメン屋で見かけたこともある。練り製品自体、よく食べられている。種類も量も豊富で、スーパーマーケットに行けば「おでんセット」が何種類も置いてある。

だからおでんを作るのもとても簡単。一人暮らしをしていても、いちばん小さな「おでんセット」を買えばいい。出汁を作るのが面倒な人は、「おでんだしの素」が売られているのでそれを使えばいい。

 

僕の場合、とりあえず大根を大量に下茹でするところから作業が始まる。「おでんセット」は翌日でもいい。下茹でしたものを、少量の塩と醤油、昆布と共に再び(真空保温調理鍋で)煮てから、他の材料を準備する。
そして「今日はどのタイプにしようか」と考える。いちおう、数タイプのおでんがレパートリーにあるので。

 

実家のおでん、家族で食べていたおでんは、母の作った味だ。
静岡おでん」文化の中心部で生まれ育った母、そして同郷の父ではあるが、我が家のおでんは「静岡おでん」とは似ていない。
母が働いていた時に、会社帰りに寄っていた割烹料理屋か何処かで教わったという、かなり上品なものだ。色も味付けも淡い。
醤油を薄めにしたかつお出汁の雑煮で、蒟蒻や大根を煮込んだものを想像して欲しい。甘みも控えめ、酒を少し使うくらいだった。


出来る限り出汁を濁らせない事が肝要とされる。なので、練り製品の数は最小限となる。油抜きや下茹ではしっかりと行い、物によっては「食べる15分前に入れ、残ったらそのままにしない」等の管理が行われる。

両親や兄夫婦、甥姪は、これに鰹節の粉や青海苔、甘くない味噌だれを付ける*1。自分は和芥子を付けることが多い。

 

自分の作るおでんは、これが多い。正直なところ、味付けの正解がよくわからないのだ。物足りない訳ではないし、これはこれで美味しい。四国で生活を始めた時に「おでんの素」も買ったけれど、専ら煮物に使うばかりで、きちんと計量しておでんに使ったことはない。

 

 

ちょっと工夫したい時は、外で知った味を加える。
モデルとなるのは、静岡市にある「おでん横丁」で知った、辛いおでん。
漫画の「孤独のグルメ 2巻」に、やはり横丁で食べる「静岡おでん」の話がある。スタンダードな静岡おでんとは違った、唐辛子が入った(汁も飲める)おでん。例によって主人公は「まいったな」と困惑しつつ、最後は「これはこれで良いものだ」と満足する。

あの店そのものではない。でも、若い頃に友人達と行った、おでん横丁の店が、この唐辛子を入れた品を出していたのだ。

辛いといっても、食べにくい程ではなくて、ほんのり身体が温まるくらいの辛味を利かせる。一味唐辛子でも良いが、自分はキムチ用の粉唐辛子を使う。辛さが穏やかだから、調整が楽で、唐辛子の風味だけ増やすことができる。日本の唐辛子なら、輪切りのものが使いやすい。

ともかく“実家のおでん”に唐辛子を入れたものが、今の「自分のおでん」となる。おでんにしては変わり種だが、わりと褒めてもらえる。

 

 

 

今日もこれを作った。両親のチェックが無く、また魚介練り製品天国である瀬戸内沿岸に住んでいるため、練り製品(○○天、というものが多い)もしっかり使う*2。実家ではメークインも入れるが、今回は使わなかった。

他に、鰹の風味を強めにして、豚足も入れて、あればヨモギ、大抵は春菊も使い、食べる前にレタスも放り込んだ「沖縄風おでん」も作る。なんとなく、ゴボウが合うと思う。

 

孤独のグルメ2

孤独のグルメ2

 

 

おでんといえば思い出す。
友人の家のおでんが、ちょっと面白かった。
何かあると餃子を山ほど作る家があるように、彼らの家では大量のおでんを作る。こんなに食べられるのか、というくらいの量を延々と食べ続ける。ニンジンが入っていたのを覚えている。
といっても、たまごは1人1個、練り製品もそれほど使わないため、量を食べることができるのだ。そういえばあの家も薄味だった。牛すじ肉ではなくて、赤身の肉を使っていたのも大量に食べるための工夫だったのかもしれない。
酒もほとんど飲まず、大量摂取に最適化されたおでん*3を食べ続けるというのは、ある種の美食なのだ。あれは体験した者でないとわからない境地だろう。根拠は無いが、ひとりではあの体験は再現できないと思っている。だから一人暮らしでは適量を食べるに留めている。

 

材料入れてコトコト煮込むだけレシピ

材料入れてコトコト煮込むだけレシピ

 

 

余談だが、濃い色のおでんは、外で食べるものだと認識している。子供の頃には既に廃れはじめていたけれど、おでん鍋のある駄菓子屋は存在していた。焼きそばやお好み焼きを食べさせる店にもあった。四角いステンレス製の「おでん鍋」がある家のほうが少数派だったような気がする。この辺り、テレビで取り上げられる「静岡おでん」とは、ちょっと違う。

 

おでんのゆ (はじめましてのえほん)

おでんのゆ (はじめましてのえほん)

 

 

一人暮らしでおでんを作ると、延々と食べ続けることになる。
そうならないように、十分に味が染みてからは冷蔵保存する。大きめの密閉容器に小分けすれば、少なくとも毎晩食べずとも保たせることができる。

 

 

孤独のグルメ【新装版】 (SPA!コミックス)

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孤独のグルメ 2 (SPA!コミックス)

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孤独のグルメ

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お題「思い出の味」

お題「これって私だけ?」

 

*1:甥も姪も玉子を尊ぶ。世間一般に、おでんの玉子は良いものとされる。僕は特に興味が無い。選ばなくて良いのなら、選ばない。

*2:香川県は厚揚げも安い。理由はよくわからない。海で大量に採れるのかもしれない。

*3:豚の角煮などが用意されたが、それは明らかに“箸休め”だった。こってりした味の濃いものが、あの場ではアクセント側になっていた。もちろんご飯は食べない。