冬至すなわちシャンメリーの抜栓日

 

 

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冬至なので、今年最初のシャンメリーを抜栓した。
もちろんシャンメリーは秋の終わりから年始にかけて飲まれるのが一般的で、愛好家のほとんども店に並び始めた頃には飲んでいるのだが、冬至に味わうものを「今年のシャンメリー」とするのが“正式”とされている。清潔で乾燥したシャンメリーグラスを銘柄の数だけ用意し、メーカー推奨温度に注意深く冷やしたボトルをゆっくり開ける。心地よい緊張を維持しながら、酸味料と糖液と香料の混合液を楽しむ夜こそは、1年に1回だけの魔法の時間。

 

 

政府や新聞は好景気と言っているし、都会の不動産などはバブル的な様相を呈している。よく言われるようにシャンメリーの出来と好景気がリンクしているのならば*1、きっと今年は美味しいのだろう。期待して数本を空けてみたのだが、生活の実感としての景気と同じく、シャンメリーもまた、なんとも判断しかねる仕上がり具合だった。
不味くはないし、十分に楽しめる味だとは思う。ただ、ひとくち含んだ直後に、思わずメーカーの窓口にお礼の電話をしたくなるような、脳髄まで酔わせるような“奇跡の1本”は、いくら飲み続けても、おそらく今年は出会えないだろう。それくらいは、毎年きちんと飲んでいればわかるようになる。

そんな中でも、今年は“白”の出来が良いように思える。
何しろ“白”だから、深みや複雑さを楽しむものではないのが常識だ。しかし今年は“赤”よりも“ロゼ”よりも、“白”が楽しい。しかも、メーカーを問わずに、だ。

よく知られているように、シャンメリーは大会社が作ることができない。「中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律」に則り、各地の小さな飲料メーカーだけがそれぞれの製品を仕込んでいる。「全国シャンメリー協同組合(かつての全国ソフトシャンパン協同組合)」は存在するが、組合が味を調整している訳ではないのだ。
だのになぜ、こうして「今年の味」が決まるのだろうか。
これこそがシャンメリーのラスト・ミステリーであり、そして数万人のマニアを虜にしたファースト・マジックといえる。「その年の空気がシャンメリーの泡となる」という師匠の言葉が今になって腑に落ちる。

 

ともかく“白”である。

ここ数年、高いスコアを叩きだしているOEM界の雄、「トップバリュシャンメリー極低糖 白」は、今年もトップクラスの美味しさだった。味の分析については何度か飲まないと断言できないのだが、味のレーダー・チャートは大きく歪みのない多角形を描くだろう。トップかつバリューを自称するのは伊達ではない。

 

 

同点首位は老舗の「トンボ飲料」か。
定番中の定番、「クリスマスシャンメリー シルバー(マスカット味)」の変化球には思わず唸ってしまう。安定感ではなく、常に変化と進歩を選ぶところが、“ザ・キング”たる所以だろう。嫌味のないムスク香と、しっかりとした甘さ。なのにきちんとシャンメリーとして成立している。

 

 

 

 

それを言うと、地元静岡県の「木村飲料」が送り出した「プレミアムホワイト」は、やや凡庸と言わざるを得ない。
奇抜なラムネで名を馳せた勢いは、残念ながらシャンメリーには込められていないようだ。高級路線だからこそ、メッキじみた輝きがつまらなく映ってしまう。

 

 

しかし同じ木村飲料でも「シャンメリー EXホワイト」は悪くない。小ぶりなシャンメリー・グラスで3杯ほど飲んだあたりから、ふわっとした糖の風味が酸を押さえて快さに変わる。飲み慣れた人ならば、あえてこれだけを楽しむ選択もあるだろう。

 

 

 

それ以外では、ハタ鉱泉の“赤”と“ロゼ”が素敵だった。ちょっと野蛮かな、と思う味付けが、逆に気を惹く。魔性の味、と言ったら大袈裟だろうか。
ただし今日は上記の如く大量に飲んでいるので、正直なところその強引さを高評価に繋げられない。
日を置いて、ゆっくり向き合いたい。

 

 

ちょうど干支が一回りする。
あの12年前の「奇跡の年」を知っている身としては、どこか寂しい抜栓日ではある。古参マニアは「奇跡なんて一生に1回あればそれで成立する」と言う。自分はまだ、そこまで達観できない。
今年の“白”は確かに良かった。だが、それはさらに上を感じさせる良さだった。

ならば飲み続けよう。
飲んで飲んで味わって、さらに飲んで、深く潜ったその先に、自分だけの奇跡を見つける、それこそがシャンメリーに魂を引かれた人間の義務なのだから。
大丈夫、クリスマスまではあと数日ある。体調も万全。今年の恵みを存分に味わいたい。

 

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 お題「今日の出来事」

お題「ちょっとした贅沢」

*1:確かに子供の頃に飲んだシャンメリーは最高に美味しかった。バブルが弾けた直後ではあったが、その浮かれた空気は何年も良い影響を与えていたのだと言い伝えられている。