今年がこんな事になるなんて思ってもみなかった。
同好の士との試飲会を、いわゆるビデオチャットで行うことになるなんて。
そう、シャンメリーと、シャンメリー試飲会の話である。
よく言われるように、シャンメリー愛好家は孤独を好む。
多人数でシャンメリー・パーティーをする事はめったにない。特に12月の始め、満月から一週間後に行われる新作試飲については、できるだけ静かに楽しむものとされている。
盛り上がるのは年明けの報告会・感想戦であって、新作のシャンメリーに向き合う時はあくまで独り。
誰に習うわけでもないのに、当たり前に身につく「シャンメリーしぐさ」のひとつだ。
でも今年は違った。
いつもは年明けのファミレスで報告会・感想戦を行うメンバーが、ほとんど同じタイミングで「Web飲み会をやろう」と言ってきたのだ。実は僕も同じ提案をするつもりだった。
会おうと思えば会える関係ではあるが、今年に限ってはそんな簡単なことさえ難しい。
だからこそ画面上でもいいからお互いの顔を見たい。先が見えないからこそ、特別なやり方で楽しみたい。そう考えたのかもしれない。自分でもよくわからない。
結局、集まったのは12人。
操作が簡単だからとSkypeでの品評会となった。
全員がこの状況に戸惑っていたし、照れていた。
だって、我々にとってシャンメリーは独りで飲むものだったから。人前で飲むのは、子供のいるメンバーくらいだろう。
特に古参のメンバーは、シャンメリーとお祭り騒ぎを切り離したがる。具体的に言うとシャンメリーとクリスマスは別物として扱いたがる。
そういう人間が同じ仮想空間上で、リアルタイムの飲み比べを行う。
どうしたって、どこか変な具合になる。
果たして、ログインしてみると、中途半端な仮装パーティーが画面上に展開された。
ボール紙のトンガリ帽子を被っていた人もいた。フェルトで作ったトナカイの角を着けた人もいれば、なぜかダークスーツをびしっと着て臨む人もいた。もちろんシャンメリーのコスプレをする人もいた*1。
老若男女、全員が仮装をしてパソコンやタブレットの前に座っていたのだ。滑稽としか言いようがない。ちなみに僕の服装は秘密。
とはいえ、さすがにmixi全盛期の頃からシャンメリーについて語り合ってきたメンバーである。
それぞれが語る「今年のシャンメリー」の分析は実に的確だった。いや、飲みながらの語りだから、面白さでいえば例年以上だった。
自分は書記として記録を取ったが、おそろしく長い「語り」が手元に残っている。
ここに細かな評点や解説を書くのもいい。
しかしほとんどの人には退屈極まりないポエムであるから、総評のみ記す。
まず例年通り、イオンのトップバリュ・シャンメリーのロゼが最高点だった。甘み、酸味、安っぽさ、ハレとケのバランス、全てが高水準。万人向けで面白みに欠けるとの声があるのも例年通り。しかし加点法で争うと、どうしても総合力で圧倒される。
その他の有名メーカーの品も、甲乙つけがたい。
出来栄えの差が激しい数年間を経て、よくぞここまで底上げをしてきたのかと唸ってしまう。特に「木村飲料」のファンであったメンバーは、看板商品である「ちびまる子ちゃん 赤」に涙さえ浮かべていた。
今年の流行である「鬼滅の刃」モデルについては評価が分かれた。味としては極めて凡庸なものばかりであったが、それを良しとするか否かで論争になった。凡庸だからこそシャンメリーではあるものの、という毎年繰り返される話。でも妙に過熱していた。
慣れないビデオチャットだったから冷静な議論ができたものの、やはりリアルタイムの(つまり試飲をしながらの)話し合いは難しい。
「シャンメリーで酔えるようになってからが、シャンメリー趣味のはじまり」とはよく言ったものだ。どうしたって夢中になってしまう。
一般にシャンメリーは景気の影響を受けやすい嗜好品とされている。
好景気の時ほど、特に果糖ブドウ糖液糖の具合がよくなる。
その意味で、今年は最悪の出来を覚悟していた。でも封を開けてみると、例年以上に素敵なシャンメリーばかり。これには全員が驚いた。
糖液や酸味料の配分や質が貧相になっている、という声もあった。
しかしそのマイナス分を炭酸ガスの配合でカバーするのが今年の傾向。そして、そのせいで今までにない味わいが生じていたことは、誰もが認めるところだ。
どんなに苦しい状況でも、知恵と工夫で革新の風を吹き込むことができる。
今年のシャンメリーは、赤も白もロゼも素晴らしかった。誰かがつぶやいた「希望」という言葉そのままの出来栄えだった。
自分が開けたのは3本*2。お腹の中からしゅわしゅわと音がしそう。しかし心地よい満足感がある。
存分に語りあったあと「それでは皆さん。お元気で」「健康に!」そんな言葉でログアウトしていく仲間たち。
誰も「またビデオチャットで飲もう」なんて言わない。今回のWeb品評会が最高に楽しかったとしても、それが伝染病による望まない状況であるのなら、そして我々の性分からは外れたものならば、どうしたって言えないに決まっている。
自分だけのシャンメリーグラスで、静かに味わう。言葉は数日後まで寝かせていく。それが僕達のスタイルなのだから。
語るために飲むには、シャンメリーは甘すぎる。
今週のお題「自分にご褒美」