風花 雪 雨 虹

休日なので少し遅くまで寝ていた。

外は風が強い。風花が舞っていた。最近ずっと寒気がすると思っていたが、ただ室温が低かっただけなのかもしれない。厚着をしてストーブをつけたら過ごしやすくなった。

雲の動きが早い。時折、強い雨が降る。少しだけ雪も降った。外出は諦めて本を読んだり、年賀状を書いたりして過ごす。

 

昼食のスパゲティを茹でている時に外を見たところ、青空が拡がっていた。霧のような雨が舞っていて、かなりはっきりとした虹が見えた。よく見ると2重虹。外側の虹は薄く、色が反転している。

数分間の出来事だった。次に見た時には消えていた。

 

虹といえば小学校の担任を思い出す。

発端は詩だった。虹についての詩が国語の授業で取り上げられたのだが、そのうち話が逸れて虹の正体についての議論になり、さらに次の授業を潰して虹の再現実験(ホースの放水で虹を作った)と討論を行っても決着はつかず、そのままクラスを2分する大問題となった時期があった。

しばらくは黒板の隅に“テーマ:虹の正体”と掲げられ、空いた時間には推論と検証が続けられたが、小学生中学年の知識だけでは限界があって(この件については書物からの引用は禁じられていたし、何故か調べる者もいなかった)、数週間もすると議論も停滞しがちだった。

ある日、雨上がりの空に虹が掛かっているのを先生が見つけ、放課後に“虹の根元を見に行く”事になった。蜃気楼については理科の時間に習っていたので、そこからの連想で「もし虹が純粋な光学現象ならば、観測者が近寄ろうとしても遠ざかるはずだ」という推論がなされたのだ。幸い、虹は住宅街から外れた水田のほうに延びている。黒板に地図を書き、“虹の根元”がどの辺りにあるか皆で真剣に検討し、目標地点を定めた。

終業を適当に済ませると、クラス全員で学校を飛び出して虹に向かって走り出す。先生ももちろん走る。先頭を走っていた友達が「虹は動く!」と何度も叫んでいたのを今も覚えている。

この時もあっという間に虹は消えてしまい、霧雨の中を走った僕達はびしょ濡れになってしまった。

次の日の理科の授業で初めて、先生は「虹が太陽と空気中の水滴の相互作用であること」を説明して、昨日の経験が実験室内で(この場合は中庭のホースで)再現できることを教えてくれた。

 

 

今思えば、ずいぶんと破天荒な先生だと思う。議論と実験を重視し、課外授業の多いクラスだったけれど、終業後に敷地外に走り出すなんて、当時でも責任問題になりそうだ。その頃には珍しく副担任がいたのだが、思い返せば彼が安全確保の為にいつも全体を見ていてくれたような気がする。

ともかく、この担任のお陰で、懐疑し、推論し、観察と実験によって真実に迫るという、サイエンスの基本を身につけることが出来たと思う。授業の一つ一つが面白くて、今でも虹といえばこの時のことを思い出すし、モーターの原理も、微生物(ビール酵母)で炭酸ガスを発生させる実験も覚えている。

 

大人になるにつれて、理科が苦手になったり、自然科学に興味が無くなったりした同級生もいたけれど、久しぶりに会って話をすると、あの昼過ぎの「虹が動く!虹が動く!」と叫びながら太陽を背にして走った時のことは覚えているようだ。

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