旅の思い出を少し

旅行の後に「やっぱり自宅がいちばん」としみじみ思う、なんて事が僕はまるでなくて、もちろん「地元がいちばん」とも考えずに、その土地に住みたくなっているし、もっと言うとすぐに次の旅に出たい気分がしばらく続く。
先日までの2泊3日、広島県への旅もそうだった。初日について、振り返りつつ書いてみようと思う。

 

 

朝一番の新幹線に乗って静岡県中部からひたすら西へ。新幹線の乗り換えが無かったこともあり、10時には広島駅に到着。
そのまま宮島への最寄り駅、「宮島口」までは快速電車。

駅を下りると、海産物と醤油が焦げる臭いが漂ってくる。いかにも海の近くの観光地、という感じ。
コインロッカーに荷を預け、船の切符を購入し、連絡船に乗る。少し混んでいたけれど、航路は短いうえに2隻が(2つの会社が運航しているので、たぶん4隻が同時運航している)往復しているから、列が捌けるのも早い。JR汽船のほうが、鳥居の側を通るために人気がある様子。僕は往復切符を買ったが、行きはJR汽船にして、混雑を避けて帰りはもうひとつの会社を選ぶ人もいる、とのこと。

 

 

船に乗る前から見えていた宮島と厳島神社。もちろん船の上からも見物する。昨年行った小豆島や直島とは少し違う海の雰囲気。海外からのお客さんが目立つ。

宮島にはあっという間に到着する。
しばらくは門前町のようなところを歩く。古き良き観光地、聖と俗、とまではいわないまでも、お参りが最高のレジャーだった時代を思わせる。しかもきちんと老舗も残っているし、町全体が観光地として作られていることもあって、これはこれで楽しい。


とはいえ少し歩いていると混雑や食べ物の匂いに疲れてくる。裏手の古い街並みに避難して、のんびり鹿(そう、鹿がその辺に歩いているのだった)や建物を眺めて神社を目指す。

 

厳島神社は、とても開けた雰囲気。海沿いということもあって、最初の石鳥居の先は日陰が少ない明るい道が続く。古い神社としては珍しい気がする。
外国人観光客に頼まれてシャッターを押したり、道案内をして入り口を目指す。

 

厳島神社については、「面白い建物」という印象。なるほどこれが本やTVで説明されていた工夫か、と感心する。それから、わざわざこんな場所に(海の上だ)建てた昔の人の考えに思いを馳せたりもする。

神社のど真ん中、舞台みたいな場所では、武道の奉納稽古みたいなものをやっていた。普通の竹刀を使った剣道ではなくて、いわゆる古武術、槍術や居合い、どこかの土地で継承されている兵法や脇差し術といった珍しいものばかり。
これはもう、得をしたと言っていいと思う。海外からの観光客も大変に喜んでいた。

 

食事は名物の穴子丼。
調べておいた「あなご飯 和田」で食べた。10分と少しは待っただろうか。有名店で行列は覚悟していたけれど、外のベンチや周辺は見晴らしが良くて、表通りからの喧噪からも遠く、待っていて苦にならない。


案内されてテーブルに着くとすぐに、何も聞かれなくとも「あなご飯」がやってくる。香ばしく焼いた穴子と、甘いタレ。タレの量は少なめ、かつ絶妙だった。もう穴子丼に関してはここが決定版じゃないか、とその時には思ったし、別の場所でも穴子丼は食べたけれど、やはりこの「和田」がいちばんだと思う。
持ち帰りのお弁当が買いたいのなら別だが、もっと有名な店で何十分も並ぶよりも、島に渡ったらまずここを目指して腹ごしらえ、という戦略が良いのではないか。

 

 

さて、もう一つの目的地である「宮島水族館」も、神社からすぐのところにある。
小さいながらも楽しいところ、という評判だが、意外と充実していて、見応えがある。

 


定番の「里山に住む生き物と魚」や「磯の生き物を触ってみよう」という展示も良かったけれど、いちばん気に入ったが「牡蠣の養殖」をそのまま大きな水槽に再現した展示水槽。
小さなサメが元気に泳ぎ、小魚が群れ、牡蠣を育てる紐の間にはコウイカの類が佇む。よく見ると紐にはイカの卵が産み付けられている。
ひとつの牡蠣養殖筏に生まれた小さな世界。よく見れば見るほど発見がある。牡蠣の産地だからこそ映える展示だった。

 

他の海獣類、スナメリも堪能した。
アシカのショーは観なかったが、頻繁にあちこちで餌やりショーやイベントを行っているようで、ちびっ子には嬉しいのではないか。
良い水族館。おすすめ。

 

おやつは紅葉饅頭。
できるだけあっさりしたもの、ということでこれも下調べをしておいた。「岩村もみじ屋」というお店。地味だけれど地方発送もしていて、なんとなく固定ファンがいるのではないかと推測する。


「こしあん」を1つ買って、店のベンチでいただく。確かに上品。お土産でいただく、べたっとした甘さの紅葉饅頭も好きだけれど、現地で食べるならこういう品がいい。出来たてなのか、温かい。

 

 

紅葉饅頭はあっさり! と言いつつ、せっかくだからと「揚げ紅葉」も食べた。
こちらは元祖を名乗るお店。店名は忘れたが、行けばわかるだろう。
お饅頭の天ぷら自体はそれほど驚かない。下手物扱いしている人を見ると「教養が足りぬ」とさえ思う。餡入りの菓子を揚げるなんて、そう珍しいことではない。
ただし型焼きのカステラ饅頭を揚げたものは、僕は初めて出会う。衣で紅葉形が台無しだとは思うが、これはこれで美味しい。

 

 

広島に帰ってきたら、まずは宿にチェックイン。
それから「広島現代美術館」を目指す。
まだ街の広さや地形の感覚が掴めず、交通網も理解していない状況で、しかも閉館時間(というかその30分前の入場終了時間)を気にしはじめる時刻でもあったため、やや焦っていた。焦って、地図だけを見て歩いていたので、ちょっと迷う。慌てて乗ったバスでは下りるところを間違えた。
結局、最後の1km程度はタクシーに頼った。広島はタクシーが多くて助かる。
結果的に、広島現代美術館は小高い山の上にあったために、このワンメーター分の出費は、疲れた足にとても優しい贅沢となった。

基本のコレクションも、それから企画展も本当に良かった。
「モナ・ハトゥム展」は、構成はこれでいいのかしらん、とは思ったものの(中盤にパネル展じみたところがあった)、展示品そのものは興味深く鑑賞できた。
野外展示も良かった。この、がらんどうの人型みたいなものがいくつも蹲る展示など、不穏さと静謐さで頭がざわざわする。

 

閉館後は、緑濃い山の中に立体作品が散在する道を散策した。
まんが専門の図書館など、羨ましい施設があった。坂道だらけ、しかしウォーキングを楽しむ程度の脚力があれば理想的な道が続く。散歩をしている人達も多い。
帰りは山を下りて、路面電車で宿に戻る。

 

 

夜は少し繁華街を歩く。
が、僕はお酒を飲まないし、水商売のお店にも興味が無い。有名なお好み焼き専門店は、待ち時間が50分という行列ができていた。
しかも広島の中心街には、「地元民向けの小さなスーパーマーケット」が見当たらない。つまらない。
ここまで来てデパートに入ってもなあ、とひたすら歩きながら、どこにも寄れずに疲弊する。

広島は川が多い土地で、水を湛えた大きな川を眺めながらだと、風景に飽きることがない。だから、初日だというのに、やたらと歩いてしまった。

そして、ちょっとした街角に「被爆者の碑」がある。動員された学徒や、ある専門家の組合員といった、小さな集団が、街のあちこちで被爆し、亡くなったことを記してある。ああ、広島なんだなあ、と思う。

ともかく、夜の街を歩いていてもきりがない。
空腹も疲労も酷い。
というわけで駅に戻り、駅ビル2階の飲食店街でお好み焼きを食べて夕食とした。ここは混雑していたが、店を選ばなければそれほど待たない。そして、確かもう書いたかと思うが、お好み焼き自体は、個性こそあれど、どの店で食べても基本的に美味しい。味の下限と上限の間が狭い、それがソース味の粉もんというものなのだ。

 

そして「ムッシムパネン」なる不思議な名前のケーキカフェでケーキを買い、宿に戻る。お茶を飲んだりお風呂に入ったり、歩き疲れた足をケアして、寝て、1日目はおしまい。

いま思い返すと「広島現代美術館」が良かった。
宮島も、「ああいう観光地のメジャー神社はちょっと…」と思っていたのだけれど、行ってみたら楽しかった。
次はもう少し効率的に散策ができると思う。人生初の路面電車も、もう怖くない。180円均一料金はわかりやすいが、いつも財布に180円分の小銭を用意するのも面倒だから、元は取れなくても1日600円のフリーパスを買うのが楽だと思う。フリーパスがあれば、短い距離でも乗る気になるから、なおさら。僕は2日目の広島市内散策でそれを実感した。

 

では、2日目以降は明日か明後日に書く。たぶん。
今日はひたすら静かに過ごした。筋肉の疲れと、日焼けがすごい。日焼けで肌がひりひりする、という人生初の体験をしている。

 

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それから漫画を買った。絵と構図が素晴らしい作品。この質感で漫画も描かれるのだ。
物語も、普通のファンタジーから少し工夫した加減が“良いセンス”だと思うし、展開が小気味良いのも好き。