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10月9日(日)女木島 男木島(後編) #瀬戸内国際芸術祭

Art 外食 瀬戸内国際芸術祭 焼菓子 生活

旅に限らず、記憶は確実に薄れていく。それはもう仕方がないことで、それでも思い出せる色々、そして頭のなかで組み上がった思い出を大切にしていくしか無いのだと思う。今回の旅行は、春と秋を合わせて、一生に一度の旅だったと考えている。少なくとも、後でもやっと考えることの多さは、かつてカンボジアを旅した時と同じか、それ以上だ。

 

 

 

 

さて今日は旅の2日目、男木島について書く。2日目のちょうど昼食時から夕刻までを、この島で過ごした。

例によって、島に渡る船はとても混雑している。座る席が無いのは苦にならないけれど、確実に「ランチ難民」になる予感がした。みんなが同じ時刻に上陸して、同じように案内所でパンフレットを貰って、歩いて巡れる程度の狭い島を散策するのだ。普通に過ごしたら、港の共同売店みたいなところでうどんを食べる羽目になる。
いや、うどんは大歓迎なのだが、朝も昼もうどんは心身に悪そうだ。静岡県民は遺伝的にうどん分解酵素に乏しいことで知られている。せっかくなので、というよくわからない理由で、少し珍しいものを食べてみたかった。

これは確か旅の途中の日記に書いたと思う。難民化を避けるために、速攻戦略を採用した。
船から降りたら、とにかく坂道を上る。山の斜面に張り付いたような村であることは知っていたし、船からの眺めでもわかる(すごく素敵な光景だった)。だから、まず案内所(凝った作りの、いかにも瀬戸内国際芸術祭っぽい形)は無視して、慣れた感じの人達について行く。

細い坂道を延々と、急いで登る。
周りは古い民家の板塀。振り返ると港と海。まるで迷路のよう。
そして瀬戸内国際芸術祭に関係ありそうなカフェを過ぎてすぐの「オーガニック和風カフェ」みたいな店に入った。

ここの食事は特に良い印象を持っていない。美味しかったとは思う。が、こういうものは地元でも食べられるし、アントシアニンがどうのこうの、クエン酸がどうこう、なんてご託も静岡の田舎に溢れている。どういうわけか、田舎に暮らして自己実現ロハスの人達は、部分的に化学の言葉を使いたがる。そして「環」とか「縁」といった漢字を尊び、無理矢理に置き換える。国道沿いのこってりラーメン店のバンダナ黒Tシャツと似た精神性があるように思える。
そういう俗っぽいものは、旅では関わりたくないのだ。
大きな平皿に少しずつ置かれた野菜や魚、そして玄米ごはんと味噌汁を食べながら、「急ぎすぎてしくじったか!」と後悔ばかりしていた。普通に「島の食材を使ったイタリアン」の店にしておけば良かった気がする。

 

 

 

でもまあ、その後の島散策はとても楽しかった。
芸術作品よりも、細い道を登ったり降ったりするのが単純に面白い。あっという間に高度が稼げて、そこから見下ろす海の美しさ。過疎の極み、といった村は空き地も多く、そこに咲いた花や、残された昔の道具、もちろん鳥や虫も“絵になる”のだ。
有名な「オンバ」を使っている地元の人もいた。ホイールベースが極端に短くタイヤの大きな、坂に特化した荷車。この瀬戸内国際芸術祭の企画としてペイントされたものではなくて、そこそこ新しいものだった。
これも前に書いたが、こうして美しく寂れた島の村を愛でる行為は、途上国へ観光に行く時に似た後ろめたさがある。この芸術祭に積極的に関わってくれている老人達の姿は、僅かながら救いにはなるのだけれど。

 

この写真は、早めのおやつにいただいた柑橘ジュースとクッキー。漆器でみかんジュースを飲むことは、たぶん人生において最初で最後。本当はコーヒーも飲んでみたかったけれど、そういう人が他にいなかっため断念。漆をテーマにした展示であり、ワークショップの会場でもあるこの場所、喫茶店ではないのだ。

老人といえば、港で出会ったお婆さんとのやりとりが面白かった。どこから来た、歳はいくつだ、といった簡単な質疑応答のあとに、「何か買い物などはあるか」と聞く。「飲み物を買いたいが、あとでいい」と僕は答える。そこでふと思い出す。餡の菓子が好きな同僚に、なにかお土産を買いたかったのだ。「この辺りに、小豆餡の名物はあるか?」と老婆に聞くと、「ちょっと待っていろ」と裏の家に行き、何かを持ってくる。こしあんを砂糖でぎゅっと固めたような、仏壇に供えるタイプのお菓子だった。いや食べたい訳じゃないんだけどな、と思うが、でも有難くいただく。お茶も淹れてくれた。静岡で飲むものとは違う、黄色いような茶色いような緑茶だった。
そのあとに小さなミカンも貰った。なにしろ砂糖菓子を食べたあとだから、とびきり酸っぱい。しかしこのミカンは、宿に着くまでの間に少しずつ口にして、少なからず疲労回復に役立ったのだった。クエン酸とか関係無く。

 

そんな島だが、もちろんアート作品も楽しんだ。
いちばん気に入ったものが、これ。
名前からわかるように、楽器なのだ。さまざまな形をした、竹製の生き物のような(ただし地球とは異なる惑星)諸々が、不定期に音を奏でる。小さな音の連続が、きちんと音楽になっている。古民家のなかで直に、あるいはスクリーン越しに眺めていると時を忘れる。入れ替え制だったから、2回見た。

setouchi-artfest.jp

面白いことに、日記を書き出した頃は、「男木島で印象的だったのはアキノリウムだけだな」と思っていたのに、文章を考え、画像を観返していると、たくさんの“楽しい”が蘇ってくるのだった。

 

これなんか、アート云々はともかく、写真に撮ってもどうにも伝わらない感じが好きだ。スリッパを置く、というアイデアが海外からのお客さん(台湾人の手芸作家姉妹)に気に入ってもらえて何より。

setouchi-artfest.jp

それからこの作品。
焼き物でできた花が、広い座敷一面に伸びている。花びらには瀬戸内の風景がうっすら描かれていて、なぜかそれを見つけた時に(海と化学コンビナートだった)、鳥肌が立ったのだった。繊細極まりないのに、気持ちが持っていかれてしまった。芸術ってすごい。

setouchi-artfest.jp

小さな小さな島。うっかり写真を撮り過ぎた気がして反省している。
でも本当に良かった。

 

そして夕方、いかにも旅って感じの夕日に照らされながら高松港に到着。宿は「栗林公園」の近く。この夜も楽しかったから、また書くかもしれない。

 

 あ、ほぼ衝動買いだった「OZマガジン」は、以外と役に立ったのでした。スマホ版が無料で手に入るし、他の芸術祭やアートイベントについても詳しいので、「次の旅」を考えるきっかけになる。

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Discover Japan(ディスカバージャパン) 2016年 08 月号

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