ハカセの悩み

昨日から一緒に仕事をすることになった人が、ずいぶんと変わっている。
仕事は、研究員である彼から指示を貰って、僕が実験をしたり、試作品を作って、の繰り返し。たぶん1ヶ月は、彼と組んでの仕事が主になる。

企業の研究部門に勤める研究員だからガチガチの理系なのは当然として、それにしても理屈っぽいというか、すぐに考えこんでしまう。まるで漫画に出てくる科学者のように、よく廊下や休憩室で立ち止まって、何かをメモしている。
常に関数電卓を持っていて、ちょっとした質問でも、きちんとした概算をしてくれるし、検算も惜しまない。こちらの技術や習熟度に応じた資料とデータを出してくれるから(たぶん僕の技術と習熟度を計算したのだろう)、とても有り難い。僕も、どちらかというと彼に似ているから、たぶん楽しく仕事ができるだろう。

 

この研究員さん、他人の冗談にも思索の枝を伸ばす。
職場には「馬鹿っぽい物言いを恥じない。あるいは利口ぶらない事を良しとする」タイプの人も何人かいる。彼らが実際に“ゆとり教育”を受けた世代なのかは僕にはわからないけれど、なんとなく脳にゆとりがありそうな、ただ若いだけではない人達。実際に「ああ、あいつらは“ゆとり”だから仕方がないよ」みたいに言う人も、少なからずいる。

一緒の職場にいる女性は、この“ゆとり”とみなされている。
自他ともに認める“ゆとり”で、エッセイ漫画で人生の真実を知り、ビジネス書に書いてあった言葉を繰り返し、そして地元にイオン・ショッピング・センターが建つことを熱望する、そんな人。「頭で考えるのって、嘘くさいじゃん」と、よく言っている。

この女性社員と僕、そして研究員とで、昼休みに雑談をしていた。
確か「風が強くて寒い」という話から、駅のホームの形式の話題になったのだと記憶している。あの駅は風が吹き抜けるとか、ベンチが少ないとか、そんな話。
そこで、女性社員が「わたし、静岡駅しか使わないから、他の駅のことは全然わからない。静岡駅以外では乗り降りしないから」と発言したのだ。
これを聞いた研究員は、いきなり黙りこんでしまった。スマートフォンを操作して、「Evernote」か何かに、指先でメモを書いていく。ベン図やフローチャートみたいなものが描かれていた。
おそらくは、「駅の利用者が、1つの駅しか利用しないとは、どのような状況なのか」を、解析しているのだと思う。
確かに変な話ではある。冗談で言っている訳では無さそう(どちらかといえば、僕が使いそうな冗談のような感じがする)。
十中八九、あまり考えずに言葉を発しただけだと思う。
とりあえず「他の小さな駅は印象に残らないよね」みたいな事を言ってみたら、研究員は、ひとまず納得したようだ。
ここで、女性社員に「矛盾ですよ」と、または研究員に「こんな話を真面目に検討しないでくださいよ」とは、なかなか言えない。僕としては、「言ったら負け」だと思う。何に負けなのかは、よくわからない。

こんな人が、企業の研究部門でやっていけるのだろうか、なんだか心配だが、誰もが「心配無用」と言う。
他の研究員達が精力的に小さな論文や特許や発見をしている時も、この人だけは、最低限の水準で働いているらしい。3年に1回、そろそろクビになる頃合いで、どかんと大きな成果を挙げるという。その分野の人間ならば、誰もが「キレがある」と評価せざるを得ない、そんな研究発表をすると伝え聞いた。
その3年サイクルが、来年の2月らしい。実に楽しみだ。なんだか天才っぽくて、格好良いと思う。

しかし車の運転は大丈夫なのだろうか。今度、聞いてみよう。帰りがけに、本人から「わたしはね、二重跳びが出来るんですよ」と教えてもらったが、二重跳びが出来ても日常生活の支えにはならない気がする(でも天才っぽい)。

 

 

 

 

大砲とスタンプ(4) (モーニング KC)

大砲とスタンプ(4) (モーニング KC)

 
大砲とスタンプ(4)限定版 (プレミアムKC )

大砲とスタンプ(4)限定版 (プレミアムKC )