『リライト』SF史上最悪のパラドックス その完璧にして無慈悲な収束

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帰宅した途端に家の電話が鳴った。反射的に受話器を取る。
相手は市内の高校野球部の父母会代表を名乗る男性。そして一方的に要件を述べる。
「この前の件ですがね、とにかくベンチと石碑(?)に決まりましたからね、もうこれで文句なしで行きます」どうやら3年生が引退する際に備品を寄贈するらしい。
「総会に来ないといっても決定事項ですから。父母会ってそういうものですから」何やら不穏な空気を感じる。強引に何かが決まり、紛糾している気配がする。
「金額も紙の通り。話は通しましたから!もう文句なしですよ」ずいぶん怒っている様子。
ここまで聞いた後に、「ところで、何の話でしょうか?」と僕が(ようやく)話す。
「何いってんのあんた。私はねえ忙しいのに(略)」と、延々と怒られてしまう。「しらばっくれるな」と言われる。
「あの、僕も家族も、その高校や野球部を知らないんですが」と言って、ようやく向こうも聞く耳を持ってくれる。
どうやら電話番号を間違えたらしい。ゼロとハチを間違えている。
「カトウならカトウって最初に言ってよ。俺だって暇じゃないんだから」と、また怒られる。いつの間にか「私」が「俺」になっている。
「言いました」と反論すると「いや聞こえていない。聞こえない言葉なんて言わないのと同じだ。それが社会人だ」みたいな事を言う。
そろそろ電話を切りたくなってくる。でも「謝れ」とは直接言う勇気が無くて、どうしたものかと黙っていたら「俺は謝らないよ。謝るとあんたみたいなのは図に乗るからね」と宣言されてしまった。そして電話は切れた。
深呼吸をして、コーヒーを淹れて氷で薄める。ついでに「この事は日記に書こう。書いても仕方がないけれど書こう」と考える。それでこの話はおしまい。




 
リライト (ハヤカワ文庫JA)
先月に購入したSF小説「リライト」を、ようやく読了した。
タイムトラベルSFで、作中作として「時をかける少女」やラベンダーの香りが出てきて、他にも色々な時間SFのオマージュが散りばめられている。
舞台は田舎の中学校。不思議な少年との数週間の夏のお話。
偶然にも隣町の岡部町(今は合併して同じ市だが)が舞台なので、色んなところに知っている地名や風景が出てくる。時代的にも、僕が中高生だった頃の話で、主な語り部は中学生の女の子。
そういう書き出しなので、爽やかな青春ストーリーのつもりで読んでいた。帯にある「SF史上最悪のパラドックス その完璧にして無慈悲な収束」は気になるけれど、安心してページをめくっていた。
それが中盤を過ぎてから妙な雰囲気になってくる。タイムパラドックスの話なので、同じような場面が繰り返される。でも少しずつ違う。
どうやらタイムトラベルが万能では無いらしいと推測する。そしてパラレルワールド的な解決も無理と判る。タイムパラドックスは必ず回避される。そういう読み解きはできる。しかし全体としては嫌な感じが強くなるだけで、結末が見えない。
最後の数ページで、ミステリでいう「解決」が行われる。なるほどそういう事か、と腑に落ちる。ちょっと強引な気もするが、それ以外に無いだろうという説明。
しかし全く爽快感が無い。登場人物達も、読んでいる僕も「じゃあ何で...」と不審に思う。
そして、最後の最後で、それはもう心身に響くほどに怖い収束が起こる。脳やお腹に響くタイプの怖さ。
今日は仕事帰りにミスタードーナツで読んでいたのだが、ちょっと食欲が失せてしまった。
SFとしてもミステリとしても精緻なからくり。しかし結末は(帯の通りに)無慈悲。「それは残酷すぎるよ」と思うけれど仕方がない。
とにかく面倒くさい位に時間SF的な仕掛けが仕組まれている。作者の頭の中はどうなっているのか。
僕はこの種の時間SFが得意ではない(頭が混乱する)。だから、世界のルール(タイムパラドックスは絶対に起こらない)が保たれた為にラストシーンに至ったのか、ルールが壊れたので思いがけない最終局面に至ったのか、まだ理解できていない。
救いの無いお話なので、同じ世界観のシリーズ第二弾「リビジョン」を買おうかどうか、悩んでいる。
4部作ということだから、最終作あたりで素敵な奇跡や救済が起こるのか、それとも厳格な理(コトワリ)は覆されないのか、気になる所ではある。
精密機械のような気持ちの良さと、取り返しのつかない生理的に堪える終末を味わえた、読み応えという点ではこの夏一番の作品だった。


リビジョン (ハヤカワ文庫JA)