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蒸留水はお腹を壊し、女性は痛みに強く、酵素を飲むと健康になる?

ようやく週末。といっても、今日は休暇を取っている人も多くて、なんとなく職場全体がのんびりした雰囲気だった。数日間の連続した仕事は出来なくなるし、来週の前半は工事その他の理由で主な業務はストップする。そのせいもあって、昨日までは本当に忙しかったのだが、ともあれ無事に乗り切れて良かった。

忙しさに加えて、この数日の暑さは、疲労を倍増させていたような気がしている。ちょっと別の建物に移動、というだけで疲れていた。

喉だって渇く。普段は仕事中には飲み物は買わない。自宅で淹れたお茶だけで済ませている。
この数日は、ペットボトルのお茶と、自宅からの魔法瓶(600mL)では足りないくらいだった。冷蔵庫があるから、魔法瓶ではない水筒(800mL)のほうが便利だった。
職場敷地内には小さめのコンビニくらいの売店と、キオスクっぽい売店が数店舗ある。他にも各所に自販機が点在する。が、わざわざ買いに行く暇も、それから猛暑の中を歩く元気も無かったために、昼休み以外には飲み物の購入ができなかった。
仕方がないから、職場にある蒸留水精製機で作った水を水筒に補充し、それを冷蔵庫で冷やして飲んでいた。いわゆる上水道は仕事で使う機会が少なく、手を洗うには適すが飲むに堪えない状態であり、基本的に仕事をする建物では、最も清潔な水は蒸留水なのだ。工業用水、いわゆる井戸水は潤沢にあるが、美味しいものではないし、飲用に管理されていないため信用していない。
蒸留水、と呼ばれてはいるが、これはかなり精製の度合いの高い、半導体製造にも使えるグレードの水。ルール上は駄目だが、水筒に汲む程度は許されている。

 

なんだかよくわからないが、多くの人が、「蒸留水を飲むと、お腹を壊す」と言っている。これは職場だけでなく、他の研究所や大学でも聞いたことがある。
今の勤め先では、これは「塩素消毒などがされていないため」と理由づけられる。他の場所やインターネットの噂では、「不純物が少ないため、身体との浸透圧の差で不具合が発生する」とされる。

どちらも滅茶苦茶な説だ。
長い間の保管は別として、蒸留水には菌の繁茂する余地が無い。栄養も、胞子も、菌体も混入していないから、蒸留水なのだ。
浸透圧の差で身体を壊すなんてことも無い。水道水だって人体との浸透圧の差は蒸留水と似たようなものだし、それならば、人は風呂に浸かっていたら死んでしまう。

たぶん、というかこれは自分が学生の頃に聞いた話でもあるのだが、この「蒸留水を飲んではいけない」説は、大学の教員による、無駄遣いと事故を防ぐための嘘だろう。
大学生というのはとかく阿呆をするものだ。ふざけて蒸留水を飲む阿呆人間が毎年発生する。蒸留水は意外とコストがかかるし、研究室での飲食は事故の元である。だから「これは毒だ」と、それっぽい嘘情報とともに流布された、のではないか。
そしてこの嘘は、おそらく「理系学生に欠かせない懐疑心と論理力を計るためのテスト」でもある。つまり、この程度の出鱈目を信じてしまう学生は、阿呆なだけでなく無能なのだ。
学生ならばいずれ気付くが(あるいは教えてもらえるが)、嘘は独り歩きして、世間に広まった、そんなところではないか。

 

こういう「なんとなく信じている真偽不明の情報」は、以外と多い。
例えば先日、「お産の時の痛みは、男性が体感したら死んでしまうレベル。だから、女性は一般的に、痛みに強い」という話を聞いたが、これをすんなり信じてしまう人は、ちょっと危うい気がしてならない。
どこが疑わしいのかは、ここでは詳しく書かない。「誰が?いつ?どうやって?」など、順番に問うていけばいい。
「これくらいかな」という痛みを男性に体感させたとして(痛みの評価そのものがとても難しいのだが)、その先に出産が待っている人間と、ただの被検者(途中でギブアップが可能)とでは、痛みへの向き合い方だって違う。

それに「女性を喜ばせるための方便」を感じるのも、この説を疑う理由のひとつ。別に僕がお産の痛みを過小評価している訳ではない点は強調しておく。が、これで女性が「溜飲を下げる」と考えるのならば、それはとても失礼なことではないか、と思う。
だから母は強い、みたいな話に持っていくのならば、輪をかけて悪質だ。

 

昔からよく言われているように、「目から鱗」が落ちた瞬間こそ、疑うべきなのだ。でなければ、信じられるものだけを事実だと考える人間になってしまう。常識に凝り固まった人間は、“自分の”常識に凝り固まっている。たまには蒸留水を飲んでみるのも、良いのではないだろうか。

 

 

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