
所用で午後から富士市の吉原へ。
飲食店や飲み屋が多く全体的に古びている吉原商店街と、岳南鉄道、それに製紙工場などが独特の光景を作っているエリアだ。
仕事の合間に少し歩いただけでも楽しい。静岡県の他の土地とはずいぶん違う雰囲気の場所なのだった。

お昼に食べた焼売定食もとてもおいしかった。
カフェのような多国籍料理店のような店で、例によって訪問先の方々に教えていただいた店だ。メニューは豊富、そして定食には小さなおかずが沢山ついてくる。
仕事中の一人ご飯にしては少し贅沢だが、時にはこういう良いものを食べることも必要なのである。
店の名前は「Chihiro totugi」。読み方はわからない。
古い商店街の中にある、とても居心地の良いお店だった。
メニューには甘いものやお茶もたくさんあるので、休日のおやつの時間に行ってみたい。
仕事は順調、散策とお昼もすばらしかった。
それだけなら「素敵な火曜日」なのだが、帰宅前に立ち寄った事務用品店で、少しだけ奇妙なことがあった。
見知らぬ高齢男性に話しかけられて、この地に残る「生贄伝説」について1分ほどまくしたてられたのだ。
この道の先にある神社が生贄の巫女の云々、海側に行ったところの淵に大蛇が云々。そして大正時代には…とコンパクトかつ重い話を伝えてくる。
早口だが、とても流暢な語りっぷりで、たぶん話し慣れているのだと思う。
一通り話し終えると、彼は満足してどこかへ行ってしまった。
自分もこの吉原のあたりが「生贄(能楽)」の舞台であることは知っていた。
昔話やお芝居でも「吉原宿」といえば「大蛇・龍神への少女による人身御供物語」なのである。理由はわからないが、過去に何度かそういう話を読んだことがある。
悲しい話もあれば、最後に神様が現れて全て解決しちゃう物語もある。
でもそういう知識ではなく、いかにも地元の古老っぽい人が血走った目で語る「生贄の話」は、不思議な迫力があった。
彼のおかげで、帰宅してからも、説明し難い不吉な印象が頭の隅に残っている。
ある意味で得難い経験をしたのだと思う。
また、ある意味では単なる耄碌老人との遭遇でしかないのだろう。
でもとにかく、悪い夢を見てしまいそうな出来事ではあった。
そんな火曜日だった。
富士山の近くだからか、あるいは寒波のせいか、空気はとても冷たかった。
ただ日差しがあったせいか、それほど寒さで苦労はしていない。
明日以降も、この富士市の吉原周辺は何度か行く予定がある。あの老人に再会したくないような、あるいはもう一度くらいはあの無差別因習物語を聞きたいような、複雑な気持ちである。
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