本当のお別れ:東海大学海洋科学博物館



東海大学海洋科学博物館が今月で閉館する。
今まで何度もお別れをしてきたが、今回が本当に最後。思い出深い日となった。

東海大学海洋科学博物館清水区の三保半島にあることから地元では「三保の水族館」で通るその場所は、数年前に閉館した。老朽化と、同じ清水区に新しい水族館ができるからだ。

その後も諸事情あって、Webサイトでの予約者に限って時間を区切って公開していた。博物館部分は閉鎖され、大水槽を中心にした限定された内容の無料公開が続いていた。
今度の閉館は、それも含めた完全な閉館となる。

 

 

この水族館は、僕の原点のような場所だった。
子供の頃に魚が好きになったのも、今も水族館巡りをしているのも、この「三保の水族館」があるからだ。

だから、有料施設としての閉館の時も、その後にも、何度も「これが最後か」と思って訪れていた。そして、目に焼き付けるつもりで大水槽の前に座り*1時間があれば2周目を楽しんでいた。

 

 

そして今回こそが完全な閉館。
残念だけれど、お別れである。予約操作をしていた時から、心がざわついていた。もし水族館に行けば、自分はどんな風になるのだろう。そう考えて不安にもなった。

 

しかし、予約をして、水族館に向かうまでの間が最もつらかった。
もう、あのすばらしい場所に行けないなんて、どうしてもっと通わなかったのか、と後悔もした。それからもちろん、さみしい気持ちにもなる。過ぎ去った日々、取り返しのつかない物事に思いを馳せながら三保半島に向かうのは、交通安全の観点からは褒められたものではない。

そして、水族館に入ってからは、自分でも驚くほど平静だった。

周りには大水槽を見上げて泣いている人もいる。
立派なカメラで隅々まで撮影している人だって何人もいた。
でも、まだ幼稚園に通っていないくらいの小さな子供を連れた人達も多かった。ベビーカーに乗った幼子にとっては、人生初の水族館だったのではないか。

 

そういう、三者三様に魚と水槽に向かう姿を見ていたら、いつもの「水族館を楽しむ気分」に自分がチューニングされていったのだ。
大きなサメを目で追い、何度も見たシマアジウツボを確認し、岩陰の小さな魚たちを眺める。
もちろん時々は、「これで最後」と思って胸が詰まる。でも、僕は最後まで、泣くような気分にはなれなかった。


残念だけれど、これでおしまいだけれど、自分にはどうしようもない。そう考えて、いつもと大して変わらない時間と熱量で、通路を巡ったのだった。

 

家に帰ってから思う。
自分には、ここまで心を揺さぶられる場所が他にあるだろうか。
同じく静岡市日本平動物園は、きっとその対象だろう。
いささか遠いが、沖縄の美ら海水族館も、大規模リニューアルや閉館が決まったら、わざわざ足を伸ばす。
いくつかの美術館やアートイベントも、二度と行けなくなったら悲しい。
好きなアーティストが好きなうちに解散や引退をしたこともない。
お気に入りのお店は多いが、店はいつか終わるものだと思っている。
住んでいて気に入った土地はある。何度も旅したい場所だってある。
とはいえ、どの場所や物事であっても、この東海大学海洋科学博物館ほど切実な思い入れは無い。そう思う。

 

こういう「かけがえのない場所」を、多く持ち合わせている人を知っている。
そんな場所は1つも無いよ、という人だっているだろう。
自分は少ないほうだとは思う。
それが良いことなのか、それとも悪いことなのか、自分にはよくわからない。

 

加えて「自分ではどうしようもないこと」と思えば心の波が収まってしまう自分の性分も、良いことなのかどうかがわからない。
最後の、本当のお別れの後は、そんなことをぐるぐると考えてしまっている。そして、ぐるぐるの最後には、感謝の気持ちが生まれる。それを繰り返すしか無いことも、だいたい理解できている。

 

さよならのかけら

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お題「わたしの宝物」

*1:良いソファがある。

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