冗談みたいに安くてまずい、カフェインレスのインスタントコーヒーを飲んでいる。
夜に飲むコーヒーは、たいていこれで済ませる。
苦みは薬のようで、香りは無く、代用コーヒーとも違う味わいがある。濃くすると煎じ薬に、薄く作ると出涸らし感が強まる。海外旅行中に手に入れたインスタントコーヒーを思わせる。
しかしここまで安いと、きちんとカフェインが抜かれているのか気になってくる。
どうせカフェインの体内半減期なんて短いもので、飲む量も少ないから、気にするだけ無駄なのかもしれないけれど。
ところで先ほど、映画『シビル・ウォー』を観てきたのだった。
ポピュリストで権威主義的な大統領が3期目に突入し、アメリカの半分が連邦政府から離脱した"ほぼ現代"を舞台にした映画。
アメリカで対立といえば共和党と民主党のそれだが、この映画世界ではテキサスとカリフォルニアが組んで(つまり共和党と民主党が組んで)ワシントンの大統領を倒すべく軍事行動をする…というのが新鮮というか、妙にリアルに感じるのだった。もはや単純な政治的な対立ではない。ちなみに劇中では意図的に「誰が敵で、どうしてこうなったか」は明確に語られない。台詞の端々でわかるのは「かなりややこしいことになっている」ことだけだ。
そんなアメリカの内戦に主人公の女性は戦場カメラマンとして参加する。もはや追い詰められたアメリカ大統領にインタビューし、報道写真を撮るべく少数でワシントンを目指す。この主人公は賞も取った立派なフォトグラファーで、戦場においても冷徹にシャッターを切っていく。
戦場カメラマンが主人公なので、戦場の報道におけるジレンマである「眼の前で倒れて血を流す人を撮るべきか、救うべきか」が物語の大きな部分を占める。といっても、主人公は既に世界中の戦場で活躍しているので、覚悟はできている。主人公に憧れる若い駆け出しの女性カメラマンが、対となるもう一人の主人公となる。
正直なところ、この「戦場報道のジレンマ」部分は、特別ともいえない。よくある話、なので先が読める。ただし、アメリカのアメリカっぽい場所が戦場になっている風景や状況が、この映画の持ち味なのだと感じた。
特に終盤は、見ているだけで疲れてしまうくらいに緊張の連続だった。
最初は凡庸にさえ感じた「戦場報道のジレンマ」も、しっかり物語を駆動する。
そんなわけで、存分に楽しめた映画だった。
内戦という特殊な状況でも、アメリカは本当にアメリカらしいのだった。イギリスの監督と映画会社がきっちりと作った、真面目な作品。
本来ならばミニシアターで上映されていてもおかしくないタイプの映画だったような気もする。でも、映像はおそろしく豪華なので、戦争モノが好きな人なら大きなスクリーンがおすすめ。
何もかもが明らかになるわけでも解決するわけでもなく、もやもやが残る映画だから、人によってはつまらないのかもしれない。でも、その”わからなさ”こそが、この映画の核なのだと僕は思う。
わかりやすい分断ではなく、なんだかよくわからないうちに殺し合いが始まり、終わる。そういう不条理じみた、しかし現実的な世界が描かれた映画でもあった。
ラストシーンの直後に席を立つ人が、ずいぶんと多かった。文字と音楽のスタッフロールではなく、まだ劇中から引き継いだような「絵のある」スタッフロール部分で帰ろうとする人が妙に多いのが気になる。
SNSなどで調べてみたところ、テレビや動画サイトでの紹介とは印象が違ったのかもしれない。
個人的には「もったいないなあ」と思ってしまう。