劇団四季「CATS」を思い出している。

今日はゼルダの伝説を遊び、みつ豆を食べるなどして過ごした。
そして時々は、先週に観た劇団四季の「CATS」を思い出している。

 

 

劇団四季のミュージカルは観たほうがいい」
人生で何度も言われてきた。
亡くなった母も、今は疎遠になった友人も、大学時代の同級生も言っていた。
僕には合うこと、余計な先入観なんて吹き飛ぶこと、規模が大きくわかりやすくて素人でも楽しめること。そして誰もが最後に言うのだ。「人生が変わる」と。

確かにすばらしいミュージカルだった。
小さな劇なら何度も観たことがある。アートイベント的なものや、都会の小劇場のもの。ミュージカル仕立ての映画も好きだ。
でも劇団四季は人生初。今回は静岡での公演ということで、これは良い機会だと行くことにしたのだ。

始まってすぐに度肝を抜かれた。
どう見ても文化会館の大ホールなのに、大道具や光や音が、猫の住む都会の一角になっていた。
そして、あの「CATS」の扮装の役者さん達は、それぞれきちんと猫になっていた。
しなやかな猫、大柄でのっそりした猫、ミステリアスな猫もいた。歌っている時も、横で控えている時も、きちんと性格がわかる仕草をしている。一瞬だって猫であることを止めない。
もちろん関節の付き方や体型で、人間と猫とは大きく違う。だけど、床をぬるりと滑る動きを上手に活かして、猫のやわらかい動きを表している。

 

 

ストーリーは外国の児童文学的な単純なもの。
序盤は、それぞれの猫たちの生い立ちや現状が歌と共に紹介される。それがもう、タップダンスから奇術めいたものまで本当に楽しい。

途中の休憩を挟み、ストーリーは終盤に。
安い席(ステージから遠い席)だから表情なんて見えないけれど、それでもはらはらどきどきしてしまう。良い映画に熱中している時のように、自分が物語の中にいるような感覚。でもそれは「すごい動きだ。きれいな歌だ」といった評価をする自分と併存している。

だから、ステージから拍手が求められれば、初めての自分でも自然に拍手が合わせられる。物語の最後には「ああ、ついに!」と盛り上がる。

 

 


子供の頃に思ったミュージカルへの素朴な疑問「どうしてわざわざ歌うのだろう?」が、今はきちんと答えられる。これは歌うことでしか伝わらない世界だ。情動を叩いて動かすには、BGMと舞台装置と演技だけでは駄目なのだ。

 

 

そんなわけで、見終わったあとには特大のため息が出たのだった。
大好きなバンドのライブが終わった後よりも、詳細を知らずにとりあえず観たミュージカルのほうが、大きいため息をついてしまった。

 

なるほどこれならば「人生が変わる」というのも、わかる。
とんでもないミュージカルで、劇団である。機会があったら、他の演目も観たい。何なら「CATS」をもう一度楽しみたい。


母や友人達は、何度も「CATSの、こういう場面があって、そこではこんなに凄いことが起こるんだ」と語っていた。詳細は忘れたと思っていたが、観ている時に「あ、この場面のことか!」と気づくことが何度もあった。
そして今、僕は誰かに伝えたい。僕に「すばらしい場面」を伝えた人達が最後に良い添えたように、僕も早口で語ったあとに「でも、観なきゃわからないよ」と言うかもしれない。そういう風に喋りたいタイプの感動が、劇中で何度もあったのだった。

 

 

ところで、今回はひとつ運が良かったことがある。
隣の席に座った人が、とても親切な「劇団四季」ファンだったのだ。
全国の公演を巡っている若い人で、僕が初めてなのだと言うと、劇が始まるまでの愛大に色々と見どころや注意点を教えてくれた。
劇が終わったあともロビーで「何度も観ている身として特に素晴らしかった点」や「次に観るならば、おすすめの席」などを伝えてくれた。小さなステッカーまで貰ってしまった。
僕の時代のオタクとはまるで違う社交性や態度に、深く感心したのだった。

別れる前にSNSのアカウントを交換したので、今も「劇団四季」情報をそこからチェックしている。
あの人が隣に座ったことは、素晴らしい偶然だった。

 

 

これほどまでに素晴らしい体験だったのだから、「もっと早くに観ておけば良かった」と後悔しているかというと、それはない。
自分でも不思議だが、こういうものは巡り合わせであってタイミングを気にしても仕方がないというのが、中年となった自分の想いなのだった。これはかつて「人生が変わった」であろう出会い、たとえば瀬戸内国際芸術祭などを通して得た発想、あるいは諦念なのかもしれない。

しかし紛れもなく、今回の劇団四季「CATS」は、僕の人生を変えた。
惜しむらくは、この感想を早口で伝える(未体験の)友人知人に会う機会がほとんど無いことだ。
でも、一人で思い返しても十分に素晴らしい体験だった。寝る前や運転中に、ふと思い出して「良い体験だったなあ」と思う日々である。

 

お題「わたしの宝物」

 

t_ka:diaryは、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。