今日は業務上の(突発的な)理由で、隣県である山梨県へ来ている。
宿泊施設はビジネスホテルを名乗っているが、どうやら元は企業の研修施設。
かつて伊豆半島で、馬術競技の合宿所だったホテルに泊まったことがある。料金は安く、特別なサービスは何も無かったけれど、全体的に質が高かった。質素だった食事も、きちんと名産品が使われ手間がかかったもの。
清潔感や静謐さが「育ちの良さ」を感じた。馬術競技を楽しむ人達によって、ビジネスホテルの雰囲気が底上げされていたのだろう。
朝には放牧場を散策することもできた。数少ない、再訪したいビジネスホテルである。
一人旅で観光地の安宿を狙うと、元は合宿所や研修所、会社の保養施設だったホテルに泊まる機会は多くなる。
基本的に宿は寝るだけの場所なので、そういった場所に特有の素っ気ない雰囲気は嫌いではない。観光ホテルよりも好ましいと思っているくらいだ。
今夜のホテルは全く違う。
研修施設を元としていることは同じ。でも、様々な部分で抱く違和感が、ブラック企業のそれを思わせる。あるいは運動部・体育会系を対象にした合宿所。
とにかく利用者を全く信用していないように感じるのだ。
なにしろ貼り紙・注意書きが多い。注意書きが多いということは、制限も多いということだ。
「夜は寝るだけ」とはいえ、あれをするなこれは駄目だと先回りして書かれていれば、気が滅入ってしまう。
パソコンを使おうとテレビのコンセント付近を見たら、「ホテルの備品以外は使うな」とテプラが貼ってある。さらに「勝手に使えばフロント側でわかる」旨の表示もある。
100VのコンセントにACアダプターを付けた程度で検出するような仕組みは無いはずで、その根拠の無さが余計に怖い。街で見かける神経質な注意書きに囲まれているような感じがする*1。
ホテルなので緑茶のティーバッグとインスタントコーヒーが置いてあるが、このティーバッグや包装の捨て方についても指示がある。
厳しい注意書きばかりではなく「旅先では普段より早く寝ることで明日が楽になる」「水分は疲労回復の発端である」「旅の荷物は少ないほうが良い」といった余計な言葉が「利用規約」のファイルにたっぷりと追加されている。
「夜にはホテル敷地内の遊歩道を歩くことができる。22:00までは照明もついている」と勧めておきながら「しかし野生動物や虫の被害は自己責任である」と文章が続く。万事このように、一言も二言も余分なのだ。
ホテル側が気になることは全て伝え、言葉で客を縛ろうという意思を感じる。
ちなみに「みだりに撮影すること・インターネットへの公開を禁じます」とエレベーターには貼り紙があった*2。
なので今夜の宿については、画像が無い*3。
そんな酷い宿ではあるが、GoogleMapの評価はおそろしく高いのも不気味だ。
「ありがとうございます」「最高の宿泊体験をさせていただきました」といったレビューが並ぶ。
あるいは僕も、一夜明けたら、このビジネスホテルを気に入ってしまうのかもしれない。「最高の学びを得ることができました。感謝いたします」とか、書いてしまう可能性がある。
ホラーというには弱いが、しかし嫌な宿なことは確かだ。ちなみに料金は、特に安いというわけではない。
ベッドはまともなので、とにかく寝てしまうことにする。「22:00を過ぎたら静かに眠れ」旨、廊下に書いてあったのだ。それに明日は早い。
では寝ます。おやすみなさい。