用事を終えて駐輪場に行ったときに、何か違和感があった。
サドルに付けたバッグが消えていた。
ビル管理室に相談したら、防犯カメラを確認してくれて、すぐに犯人は判明した。といっても「黒っぽい服を着た、おそらくは高齢の男性。太っていて背は低め」だとわかっただけ。
「たぶん毎日来る怪しい爺さんじゃないかなあ」と彼らは言う。
警察への届け出はビルの管理室が代行してくれるそうだ。
しかしこのサドルバッグ、特に値段が付いているようなものではない。革で自作した、本当に試作品だったのだ。中には100円ショップで買ったような安物の工具と、ウエットティッシュが入っているだけ。
管理室の人達は「値段が付かないものでも(もちろん)盗品になります」と言う。
でも僕としては、取り返して修理して取り付け直して…と手間をかけるほどの愛着はない。彼らは「手作り→思い入れのある一品物」と考えたようだが、本当に間に合わせの品だったのだ。
とはいえ、おそらくは盗癖のある老人を放置するのも良くないだろう。だからこの件は、きちんと対応してもらうようお願いしてきた。
盗まれたのがバッグ(手作り間に合わせバッグ)だけで良かった。
これがサドルだったら、立ち漕ぎで帰宅することになっていた。サドルだって革の手作りなのだが、泥棒の目を惹かなかったようだ。
僕としてはサドルのほうが自信作なのだが。悔しいような、ほっとしたような、複雑な気持ちである。
ちなみにサドルバッグは、新しいものを買うか、再び作るかは決めていない。
同じ形のものを作るのも芸がない。でも今は、ちくちくと針仕事をする気分でもないのだった。
春になったら考えようと思う。それまではフレームに付けたバッグに工具は入れておく。