和菓子屋の喫茶部にてモンブランを食べてきた。
これは昨日の話。
喫茶部、といってもInstagramのタグによくある「パフェ部」のような、学校の部活動に擬えたバーチャルで緩い意思表明ではない。ちなみに僕は、いつまでたっても「仲良し=学校生活」を持ち出す貧困な感性を好まないのだが、それはまた別の話。
甘党趣味者が言うところの喫茶部というのは、和菓子店の喫茶部門のことを指す。
もう少し具体的に言うと、地方の和菓子チェーンにおける、店内にある喫茶室のこと。
家族経営の和菓子屋ではなくて、地方銘菓や名物菓子、そして季節菓子を扱う中規模のチェーン。県内の1地方を寡占しているが、県下全般を覆うほどの大企業ではないことが大半。
洋菓子の扱いも珍しくない。そして、地方の文化発信地でありたいという気概が店の作りなどに現れることも多々ある。
大雑把な感覚だと、西日本のほうが「お茶が飲める和菓子チェーン店」は多い気がする。
四国の香川県では(観光地ということもあって)喫茶部のある和菓子チェーンがあちこちにあった。しかも、入ってがっかりすることがほとんどない安心感があった。「地元の老人専用」みたいな喫茶店も多い高松市においては、ちょっと甘いものを楽しみたいときには第一選択に挙がる場所になっていた。高松市や丸亀市の「名物かまど」も、観音寺市の「白英堂」も、日常のなかの小さな贅沢として、とても良い場所だった。
かつて静岡県中部では「ロリエ」がそういう立ち位置だった。
「かしはる」グループもそれなりの勢力はあるが、基本は和菓子販売に注力していて、喫茶どころか”時代に合わせた新形態の店舗”すら見かけない。だから、静岡県中部は、喫茶部という観点ではかなり寂しい地域といえる。
ところで最近は、その中部においても「たこまん」が進出してきた。
県西部ではあちこちにある「たこまん」だが、中部への進出は「ロリエ」を吸収してから。だから新店舗が大半で、洋菓子中心のモダンな店舗や、カフェの併設が多い。
今日はそういう「たこまん」の1つ、藤枝店でモンブランを食べた。
ほぼ偶然、ちょうどコーヒーを飲んでパソコンを使いたいタイミングでお店を見つけたのだった。
カフェといっても紙コップの簡易的なものだし、こういう店でコーヒーだけというのもつまらない。とケーキなども見ていたら、「生モンブラン」なるメニューを発見した。
これはつまり、マロンクリームを食べる直前に絞るタイプのモンブランだ。
いちど食べて見たかったので、注文をすることにした。
お店で売っているモンブランよりも、マロンクリームの量は多い。
それだけで大満足。注文して良かった。
良い偶然に、甘党の神様に感謝したい。
ただし、中に仕込まれたアイスがとても硬かった。新幹線で売っていたアイスを思い出させる硬度。そして、しゃりしゃりしている。対比となるのがマロンクリームだから、この硬さは気になる。それにどうしても「底上げ・マロンクリーム節約用資材ではないか」という疑いを消し去ることができない。こういうことは考えたくないのだが、つい「ケーキ専門店とは違うのだなあ…」と嫌な言葉が頭に浮かんでしまう。
そもそも僕が求める「絞り出すタイプのモンブラン」の、要求が高すぎるのだ。
子供の頃に深夜のフランス映画で見たモンブラン。
大皿に、きしめんみたいなマロンクリームが山盛りに出されて、3人のおっさんが好きなだけ自分の皿に移して、もりもり食べていた。
「男なのに甘いものを」といった雰囲気は皆無で、実においしそうに、かつ気取りなく、ほとんどマロンクリームの塊(焼き菓子が添えてあった)をフォークで口に運んでいた。
なんというか、存分に1種類のものを食べる贅沢さが、あの映画から伝わってきた。
もうタイトルも忘れたし、ストーリーだって理解も記憶もしていないけれど、僕にとってのモンブランといえば、わけのわからない深夜映画のモンブランである。
昨今のモンブラン・ブームには期待しているけれど、まず静岡県の田舎では「たっぷり絞り出すタイプのモンブラン=生モンブラン」に巡り合うこと自体が少ないし、ようやく出会えても、この「たこまん」のように、せいぜい及第点なのだ。
都会の人は言う。「田舎がいいよ。都会には用事があった時だけ遊びに行くのがいい」
なるほどそれも道理である。しかし、こういった細かな部分での選択肢の少なさは、たまに遊びに行くだけでは絶対にカバーできないのだった。
マロンクリームを自作して、思う存分食べるという手も無いわけではない。
生栗から作らないのならば、それほど手間もかからない。ケーキ材料店なら、出来合いのマロンペーストが(それなりの量になるけれど)手に入る。
絞り出し機も、簡単に作れるだろう。
でも、たぶん作っているうちに気持ちが冷める。真顔で絞り出したモンブランにどれだけの祝祭が宿るのだろうか。
だからブームのうちに、満足できるモンブランを探さなければいけない。
しかしブームのものをいち早く取り入れる店はおしなべて質が低いこともまた、田舎の常識である。「流行っているから」で新メニューにどんどん取り入れる店*1のものは、大切な何かが抜けているものなのだ。とても悲しいことだと思う。
ちなみに今日は平和でした。
この「ノスタルジア喫茶」は期待している。前作の「ノスタルジア食堂」は素敵な本だった。
*1:例えば「たこまん」