静岡で少し時間ができたので、映画『竜とそばかすの姫』を観てきた。
なかなかおもしろかった。
完全没入型のSNSみたいなところで、田舎の地味な女の子が活躍して、いじめ、恋愛、DV、炎上その他の諸々に立ち向かっていくというお話。
アニメーションとしては豪華絢爛で、ちょっとディズニーっぽい主人公のアバターも含めて見応えはある。日常(現実世界)である高知県の光景も、実に高知っぽかった。
でも、仮想現実世界の描写も、学校生活でのごたごたも、良く言えばシンプル、悪く言えば陳腐な設定やお話が続く。映像系専門学校生が考えた「近未来のインターネット」や「リア充とオタクの格差」みたいなものが数珠つなぎになっている。ドメスティック・バイオレンスの描写なんて、ちょっと安直すぎて困ってしまった。
この監督の作品はいつもそうだ。想像を超えた世界なんてものは一つも提示されず、最後には気合と勢いで感動へとなだれ込む。
それぞれの舞台やシナリオ上のカラクリ、そして世界設定は、その分野に興味がない人が簡単に思いつくレベルであり、趣味や仕事で関わっている人にとっては雑でつまらない。今作でも「その技術レベルならば、トラブル解決も簡単じゃないの?」とか思ってしまうのだった。主人公が泣いたり叫んだりする(物語上の)必然性を疑ってしまう。
技術や設定の粗ならばそれでもなんとかなるけれど、人間の描写*1となると、集中が削がれてしまう。
主人公が泣いて叫んでいても、全くといっていいほど感情移入できない。
そしてこの監督、今回もまたヒロインを実に都合の良い女性として描いている。物語の都合とはいえ「女性=母性」に頼った物語になりがちである。
でも今作は「歌」がいい。
主人公の声と歌を演じる中村佳穂さんが素晴らしかった。
なんだかよくわからないけれど気分と心を持っていく、という意味で歌はとても強力なのだ。緻密で隙のない物語など、下手をすると歌の邪魔になってしまう。
むしろ、ご都合主義の権化たる完全没入型SNS*2という最高の舞台では、歌で「わあっ」と盛り上がるだけで映画としては楽しくなる。ある意味でミュージックビデオみたいなものなのだ。
ずいぶん前に、小さなライブハウスで1stアルバムを買った縁もあって*3贔屓の自覚はあるのだけれど、それを差し引いてもこの映画は音楽が全てを救っている。
つまらないことが続く昨今、この勢いのある感動作は、もしかすると感動の嵐でロングランになるかもしれない…とさえ思った。
我を忘れて楽しむ場面は一つもなかったけれども、十分に楽しい映画だった。
SFでもファンタジーでも恋愛映画でもない、「冴えた解決方法」を期待していると不満ばかりという点でオタク向けではないけれど、でも料金分は楽しめる。甥や姪には勧めるけれど、映画好きの面倒くさい友人には「お好みで」と伝えたい、そんな作品。
好みではない映画だったから、どうしても辛辣な書き方になってしまう。
ただ、細田守監督は自作のノベライズも自分で書いていて、そちらは粗も少しだけ少ないので*4、気が向いたら読んでみたい。それくらいには興味を持っている。