スーパーカブの話

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見た

遠方の知人から、アニメ「スーパーカブ」を勧められた。
「君なら楽しめる」という。四国に住んでいたとき、知人のロードバイクを少し弄らせてもらった。だから自転車の親戚である原動機付自転車にも興味があると思ったのかもしれない。実際、大きなバイクよりも、小さなカブのほうが僕は好きだ。


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アニメはAmazonで見ることができた。
まず技術に驚いた。背景も人間も丁寧かつよく動く。昨年に訪れた山梨県の北のほうが物語の舞台なのだが、あのあたりの雰囲気もよく出ている。ひと昔前の劇場版アニメみたいだ。

ストーリーもなかなか良かった。
奨学金暮らしの貧乏な女子高校生、徹底的に地味な主人公がスーパーカブを手に入れてから少しずつ世界が広がっていく、そんなお話。
自分も大学生になったときに、まずはスクーター、そして車を手に入れたときの万能感を覚えている。単に遊びに行く範囲が広がっただけでなく、買い物も寄り道も、およそ限界を越えて一気に選択肢が増える。動力付きの乗り物には、世界観を変える強さがある。
あの変化は、アルバイトで「自由に使えるお金」を手に入れたときの変化と同じくらいに印象的な、特別な第一歩だと思う。

そういった日常の変化が、地味だがしっかりと描かれていく。カブによって認識が変わると、画面全体のトーンが鮮やかに切り替わっていく演出が楽しかった。


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主人公には、スーパーカブのカスタマイズなどを指南する同級生の相棒がいる。
物語を牽引するためか、この相棒である同級生の女の子は、かなりエキセントリックである。言い換えると、物語に都合の良い存在である。
一人暮らしをしていて、かなりお金に自由があって、知識も技術もある。控えめな主人公と対称的に明るい。そして、明確な目的を持ってカブを乗っている。

そのせいで、かなりリアリティーに欠ける人間に描かれていた。
なんというか、原付きバイクを弄っているおじさんが妄想する「バイク好きの女の子」にしか見えないのだ。無茶もルール違反も多い元気な人物ではあるが、言動の端々から、独りよがりなおじさんマニアの匂いが漂ってくる。
僕はスーパーカブ・カスタム界隈には全く詳しくないけれど、それくらいはわかる。カブのいじり具合や、社会性の欠如具合が、完全におっさんだった。

そういう意味では、貧乏でかわいそうな女の子だけどカブで人生の楽しみを見つけた、というメインのストーリーと主人公にも妄想が入り込んでいるのだけれど、やることが地味なので悪い感じにはならない。

しかし2人とも、今の女子高生を描いているのにルール違反が過激である。細かくは書かないけれど、違反切符を切られる回が無いのが不思議なくらいだ(自損事故はある。)。


そういう部分が気に入らない、という感想もネットでは何度か見かけた。
実在する乗り物、土地、不思議なことが一つも起こらない世界、そして常にお財布の中身を気にする主人公。それらの要素が、このアニメを、よくある趣味のハウツーを中心に添えたリアルなお話に見せているのかもしれない。
そうではなくて、完全なファンタジーだと考えたほうが正しい。
漫画でいうのなら、昭和や平成の少年誌には必ず載っていた「ヤンキーマンガ」が近い。
スーパーカブ」は機械と乗り物が好きなおじさんのファンタジーであり、動力付きの乗り物を手に入れた人間が手にする広い世界を共有するファンタジーであり、経済性と耐久性を備えた伝説的な「日本のバイク」であるスーパーカブがすごい!なファンタジーなのだ。
だから、今どきの現実に近い舞台のアニメにもかかわらず、話の都合によってはカジュアルに大人のモラルから外れるし、それを咎める人も登場しない。

生きた人間の話、と捉えると辛いかもしれない、でもそう捉えちゃうよねえ…と思いながらも、僕自身は楽しく見ることができた。
あと数話が未見だが、たぶん最後まで集中して見ることができるだろう。
良いアニメです。2話くらいで好き嫌いがわかれそうではあるけれど、僕は気に入った。

 

 

作る 

もうひとつのスーパーカブのお話。こちらは現実世界の、自分が関係するお話。
少し前から、カブのカスタマイズについて依頼を受けている。
新品のスーパーカブを買って、いくつかパーツを付けて、ちょっとしたオリジナル要素を加えて…みたいな話を友人から請け負うことになった。
こんなご時世、そして僕の体調も思わしくないので、今はネット越しにプレゼンをしているところ。たぶんパーツは僕が調達して、友人宅のガレージで組み込むことになる。
既製品が無く、あるいは予算が足りない部分は、僕の趣味であるレザークラフトが活躍するだろう。
カブくらいのバイクだと、自転車のカスタマイズが応用できる。ミニベロに近い部分がある。
さらに、カスタマイズパーツが手に入りやすい。
とはいえ、調べれば調べるほど「定番カスタマイズは定番すぎてつまらない(友人談)」となるので、あまり見かけない「小綺麗かつ実用的な、少しかわいい」を目指して試行錯誤しているところ。
ハンドメイド系の通販サイトやブログ、雑誌が参考になりそう。アウトドア系の意匠は気を抜くとごちゃつくし凡庸になりがちなので、なかなか取り入れにくい。
自分の性格と趣味からして、うっかり「無印良品スーパーカブ」になりそうなのが怖い。友人は、それでも良いと言っているけれど。

 

 

お題「ささやかな幸せ」

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