灯油の容器にガソリンを入れて歩いてみたら

 

車を運転中、唐突に警告音が鳴り始めた。
モニターが素っ気ない色合いに変わり、「ハイブリッドシステムエラー」の文字列とともにエラー番号がスクロールしていく。そして「すぐに車を停めてください」と赤い文字が大きく表示される。

 

 

すごく格好良い。子供の頃に深夜に見ていた「ナイトライダー」みたいだ。
しかしバイパスを走っているのはたぶん危険。ちょうど下道に降りるところで、すぐそこに道の駅というかサービスエリア的なスペースがあったので退避する。
エンジンは既に停まっていて、残り少ないバッテリー残量を使って「非常モード」で走っているようだ。普段はバッテリーとモーターの走行はせいぜい30km/h以下なのに、この時はもう少し速度が出ていた。とにかくそうやって頑張って、なんとか駐車場のマスに停めることができた。

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取り急ぎ、販売店に電話をして救援を仰ぐ。
しかしお店はサービス担当者が不在で、夕方以降の対応になってしまうという。
エラー番号は把握しているので、電話を受けた営業担当者さんに相談すると、「燃料タンク関係のセンサーを騙せば、いちおうエラーは殺せます」と教えてくれた。
こういう状況で「無効にする」「止めてしまう」を「殺す」と表現するあたり、彼もまた機械を弄った経験があるのだろう。

整備マニュアルの対応ページを教えてもらって、作業にとりかかる。
作業は簡単だった。ヒューズを外して、ケーブルを抜き差しして対応を見るだけ。

これでエラーは解消された。
しかしガソリンタンクの残量がゼロになっていた。

今までケーブルと、その先にあるセンサーの不具合により、ガソリン残量のチェックがアホになっていたようだ。もうほとんど空なのに、センサーは「まだまだ入ってます」と制御装置に報告をする。
ようやく辻褄が合わないことor機器に異常があることに気づいた時にはタンクはほとんど空っぽ、なのでエラー表示とともに「とりあえず電動自動車のふりをして安全に停車」をさせた…ということらしい。

 

というわけで、僕の愛車はハイブリッド・システムに不具合を抱えたマシンから、ガソリンタンクが空っぽになったマシンへと変貌した。
「非常モード」の発動により、40分ほどはモーター走行ができないという。

すごくかっこいい。
ロボットアニメなら大ピンチになるところだ。未知のモードには代償が必要なのだ*1
燃える展開である。

 

 

とはいえ田舎のしょんぼりしたサービスエリアにおいては、これは単なるガス欠車である。購入店の営業担当さんに聞いてみると「ガソリンを届けることはできるが、おそろしく高くなる。そのへんで調達するかJAFなどに頼るのがよかろう」と言う。
言いたくはないが、臨機応変に怠惰を駆使する男である。

上手い具合に、少し歩いたところにガソリンスタンドがあった。
老婆が1人でやっている、漁協や農協の会員専用みたいな小さなスタンドではあったが、贅沢はいえない。
状況を説明したら「いっぱい余っているから、これがよかろう」と冬用のポリタンクを1つ貸してくれた。
「3Lほどのレギュラー・ガソリンを、この容器で運び自ら給油する。それからここに戻ってきて、ポリタンクを返し、満タンにする。OK?」という。
僕としては他に手が無い。法対応済みの携行タンクなどは扱っていないようだ。
「OKです」と答え、ガソリン入りの灯油タンクを手に車へと戻る。

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寂しい幹線道路ではあるけれど、灯油タンク(蓋は無く、給油用のノズルが付いている)を持った中年男性は、客観的に見てヤバい。
これは通報案件だろうよ…と自分を客観視しつつ歩いていたら、本当にお巡りさんが来た。なぜか駐車場の警備員さんも来た。

  • 「少し質問をしていいか。職務質問のような小難しいものではない。ちょっとした雑談だ。オーケイ?」
  • 「オーケイです。ごくろうさまです」
  • 「手に持つそれは何であるか?」
  • 「ガソリンである」
  • 「なぜそんなものを持って歩いている」
  • 「ガス欠になった。車、その先に停めた。ガソリン、あちらで買った。タンク、借りた」
  • 「なるほど。しかし都合よく駐車場に停まるものかね?」
  • ハイブリッド車でギリギリでしたね」
  • 「なるほどなるほど。しかしそれは灯油タンクだね。灯油って書いてある。給油するところを見ていいかい?」
  • 「どうぞ。ついてきてください」

こんな会話だったと思う。
制服の人達に囲まれて、灯油タンクを持って歩くという稀有な体験ができた。

彼らは「ガソリンではなく灯油ではないか?」をひたすら心配し、疑っていた。放火魔と疑われないだけ幸運だったといえよう。

ともあれ、警察官と警備員に囲まれてガソリン3Lを給油したところ、すぐにエンジンは動くようになった。本当に、完全にガス欠だったようだ。

 

 

すぐに件のガソリンスタンドに行き、灯油タンクを返して、満タンに給油する。ついでに先ほどの老婆にお礼を言う。
「良かったねえ。がんばりなさいよ」と、お菓子をいくつかいただいた。

  • キャラメル
  • 砂糖をまぶした寒天ゼリー(ぶどう2個、あおりんご、コーヒー)
  • 茶飴

この騒動で、すっかり疲れてしまった。
しばらく走っていたら、「緊急モード」でダウンしていたハイブリッドシステムも回復した。ありがとうマツダ。そしてありがとう出光のガソリンスタンド。

 

破損が疑われるパーツについては、後日の手配となる。
しばらくタンク残量には信用がおけないけれど、いきなり満タンの航続距離(今の季節ならば900kmくらい)を走り切る機会もないから、とりあえずは大丈夫。

 こういう非常時のために携行缶を1つ買っておこうか検討中。
1Lあれば事足りるはず。とはいえ1年に1回もガソリンが足りないなんてことは無い。旅先で不安になることも多いし、給油の機会をギリギリまで後回しにしがちなので、無駄にはならないとは思うのだが。
でも小分けしたガソリンは長期保存ができないとも聞くし、そうなると管理も面倒なので悩むところだ。手持ちの金属ボトルがガソリンも対応しているのだが、半ばアンティークのキャンプ用品なので心許ない。

 

 

 

そんな1日。
それ以外は得に何も。オムライスを作ったり、タケノコピクルスを仕込んだりもしたけれど、全く印象が無い。オムライスには今日の反省として、ケチャップで「安全」と書いた。安全第一、までは書ききれなかった。

 

お題「ささやかな幸せ」 

*1:エヴァンゲリオンは毎週そんな感じだった。