6月から見学受付を再開した「イサム・ノグチ庭園美術館」に行ってきた。
四国に住んだら、いつか行こうと思っていた場所。
高松市の郊外なので、車ならすぐに行ける場所ではあるが、この美術館は完全予約制。少し前までは往復はがきでの予約申請が必要だった*1。
今回はメールで申し込み、希望通りの日時で参加できた。
なにしろ平日の昼間である。僕も含め3名での見学だった。
ちなみに全域が撮影禁止。なので画像は、敷地外(受付部分周辺)のもの。
学芸員が1名ついて、説明を受けながら巡回していく。
美術館という名だが、イサム・ノグチ氏のアトリエと自宅を活用した施設なため、屋外が大半。
まずアトリエの敷地に行き、簡単な説明を聞く。それから「だいたい○○分くらいで次の場所に行きますので」と自由行動となる。
アトリエといっても、石材加工の場だからかなり広い。
石組みの丸い敷地の真ん中に、大きな倉があって、雨天用の作業場となっている。
作業場には、彼の使っていたハンマーなどもそのまま並べられている。ファンなら盗みそうな…なんて事を考えてしまった。
敷地には、どこかで見たような氏の作品、習作、試作品のうち、お気に入りのものが並べられている。並び方も全てイサム氏が指示をしたそうだ。
もう一つの倉には、代表作そのものがいくつも置かれている。
暗くて涼しい倉のなかに、美術館や街で見た作品があるのは、なかなかの迫力である。
周囲は石材工場や山林、遠景に屋島の山が見える。
楠や椎が植えられた広々としたアトリエスペースは、その圧倒的な作品の物量もあって、できれば時間制限無く過ごしたい*2。
ちょっとした石の欠片が積まれた部分でさえ、センスが良い。
次のエリアは、自宅。
丸亀市の古民家を移築した、とのこと。単なる移築ではなくて、土間と床との高さを調整したり、床暖房(!)を入れるなど手が入っている。もちろん彼の作品である灯りも存分に配されていた。
自宅横の石段もまた、彼の作品。ここを登ると、丸い丘に出る。
いくつかの石造りの作品が配置された、広々とした場所だ。すごく複雑な曲面でできた、見る角度によって形がかわる、芝生の丘。なるほど「庭園美術館」なのだなあと納得してしまう。
ここはクライアントや友人を招いた時に、自宅と共に必ず立ち寄ってもらう場所だったそうだ。卑近な例えだと、住宅販売会社の本社横には最高グレードのモデルハウスを置くようなものか。
とにかく贅沢な空間である。
今は財団管理となっているが、基本部分は「イサム・ノグチ設計&プロデュース」なのだから当然のこと。
そう、この土地は、イサム・ノグチ氏が全盛期だった時に、日本での拠点として作られた場所なのだ。だからアトリエ・ゾーンに作品群が絶妙な配置で置かれているのも当然だし、家にも手が入っているし、丘全体が作品になっているのだ。
アーティストなら誰もが考える「ぼくのかんがえたさいきょうのアトリエ」である。
同時期にアメリカやフランスにもアトリエがあったという。
まだ四国への交通の便が今ほど良くない時代だったから、ここは石組みの作品を主に扱う、そして日本らしさを楽しむ場所として作られたのではないか、と想像する。
石材が有名な牟礼という土地だから、周りには話の通じる職人さんも多いだろう。今日も石を加工する音が遠くから聞こえてきた。
そんな場所で、存分にデザインと制作を進めたのだ。
とんでもない場所だなあ、と今になって思う。
そりゃあ完全予約制にして、少人数で見るしか無いよね、とも思う。
砂敷きの場所も丁寧に掃いてあって、いつも学芸員さんは遠くに控えていて、聞けば何でも教えてくれる。ずいぶんと贅沢な時間を過ごすことができた。
行けてよかった。
「人生の美術館10選」にノミネートされる美術館だった。ここはすごい。普通じゃない。もう、イサム・ノグチ関連はこれで十分じゃないか、とさえ思える。例えば東京の新美術館で「イサム・ノグチ回顧展」が開催されても「ふふん、僕はもう“本場”を楽しんじゃったからね」と、行かないかもしれない。説明文も何もない公園みたいな美術館だったけれど、それくらいにお腹いっぱい。
なかなか旅行の予定には組み込みづらい美術館ではあるが、もし機会があったら行ってみて欲しい。現代アートや建築、インテリアに興味がある人なら、少しの予習だけで存分に楽しめると思う。良い場所です。
今週のお題「好きなお店」