今年ほど空と気候について考えた夏があっただろうか。
今日もまた、にわか雨と明日の台風接近とで、なんとなく慌ただしかった。
ところで今日のお昼ごはんはトンカツだった。
「とても美味しいです。是非どうぞ」とクーポン券をいただいた、訪問先からすぐ近くのトンカツ屋さん。昼からトンカツとは縁起がいい。
1人で行ったのでカウンターで食べる。
注文して10分と待たずに「トンカツ・豚汁定食」が届く(昼はこの1品のみ。ごはんの大小は選べる)。
ずいぶん早いな、とは思ったが、なにしろ1種類しかメニューが無いわけで、準備を止めなければそういう事もあるだろう、と納得して箸をつけた。
かつてファストフード店で「とりあえず作る」オペレーションが当たり前だった時代があった。ハンバーガーを“見込み”で作り、一定時間が経てば廃棄していた。思えばとんでもない話だが、客が絶えない店なら今でも可能だろう。
パン屋再襲撃 (HARUKI MURAKAMI 9 STORIES)
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しかしこの「トンカツ・豚汁定食」は、本来は僕のものではなかったのだ。僕より早く席についた3つ隣のお客さんに届くはずの「トンカツ・豚汁定食」だった。
食べはじめてからその3つ隣のお客さん(ちょうど角のところで顔が見える、気が短そうなおっさん)の視線に気がつき、そして伝票の「席番号」で間違いに気付いた。自分の席番号は不明だが、伝票に記された数字(No.4)を満たす位置では無いことはその位置から確実にわかる。おそらくNo.4はこちらを見ているおっさんの席である。
しかしもう食べ始めてしまったことだし、おっさんに伝票の番号は見えないので、黙っていれば大丈夫だろうととりあえず食べ進めることにした。
が、この後に続く「トンカツ・豚汁定食」がなかなか完成しない。厨房が昼休みに入ったかのごとく、定食の提供が滞る。
そして唐突に、僕が怒られた。
「どうしてあんたが先なんだよ。ちょっと考えればわかるでしょうに。おれ、待ってるんだよ」と、わざわざ席越しに言い始めた。
こういう時には「ぼくわからない」という顔をするしかない。
唯一の証拠は伝票だが、これはさりげなく裏返しておいた。
おっさんは怒り心頭で僕に何か言い続けていたが、僕としては「何だろう?誰に何を話しかけているのだろうか?それにしても美味しいトンカツだなあ」という“95%無視の顔”をし続けるのみ。
食後のお茶を飲んでいる頃に、ようやくNo.4おっさんの元に「トンカツ・豚汁定食」が到着し、そして店員が怒られていた。
僕でもわかったのだから、店員(3名いた)はこの取り違えにすぐに気付いたのだろう。お金を払う時になって、小さな声で「巻き込んでしまって申し訳ない」という意味の謝罪をされた。
思い出すと、なんだか心がざわつく。
僕に言っても仕方がないではないか。
食事中の人間に怒るのならば、店員を呼べばいい。南部鉄器風のベルをちりんと鳴らせば店員はやって来るのだから。
今日の出来事といったら、このトンカツ屋の事件くらいか。
仕事は順調。
順調というか、店じまいに向けて中長期的な計画が軒並みペンディングになっているので、日常業務を淡淡と進めるのみ。
引き継ぎ書類を作るにも先の人員や業務計画が未定なため、手のつけようが無い。
そして、引き継ぎ書類というのは、引き継ぎ先が主導して作るべきだと僕は考えている。
これは持論ではあるが、昔の上司の言葉もある。「辞める人間にマニュアルを作らせるな」と。
逆に、教育資料は教育担当者が作る。
「素人にノートを書かせただけで済む教育なんて無い。それはOJTの名を借りた怠慢だ」とかの上司はいつも言っていた。専門家は誰か考えれば、それは自明だろう。
引き継ぎは逆で、どんなに分厚いマニュアルを用意しても、これから主役の人間が“何をしたいのか”を明確にしなければ必ず洩れが生じる。データを大量に保存できる今の時代ならなおさらのこと。
でもまあ、辞める人間がこういう事を言うと角が立つ。
文句を言う人は決まって責任論を唱える。しかし今までの経験上、「マニュアルに全部残せ。それを読めば仕事ができるようにしてから辞めろ」と騒ぐ人は、ごく当たり前の(皆ができる)仕事ができない。引き継ぎ先の人達はそれなりの能力や経験を見込まれているので、そこまで騒がない。「ふむふむ、ではこの点は…」と質問が具体的なのだ。
そういえば辞める人間にこうして「全部残せ」と騒ぐ人は、同時に教育担当者である時には碌な資料を作れない人でもある。これも経験上の話だが、根の部分で繋がっていると思う。
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