日帰りで静岡県東部を探索してきた。
いくつかの目的地を決めた以外は、かなりいいかげん。食べて買って、自転車に乗って、とまあいつも通りの遠出。どういうわけか出費が多かったけれど、それ以外は問題無し。
まずは、ずっと前から行きたかったアンティーク・ケーキ・カフェの「irodori」で午前中のおやつを。この店のケーキは、以前は静岡市でも食べられるお店があったのだが(あるカフェが取り寄せていたので)、閉店してしまった。ケーキの味は変わらないのかもしれないけれど、店の雰囲気はまるで違う。静かで趣味が良くて、素晴らしいお店だった。
駅から徒歩1分、という立地にもかかわらずとても落ち着くお店。近所に欲しい。
ちなみにケーキは「ピスタチオのショートケーキ」を食べた。ショートケーキというより、上質な各種クリームを味わっているような品だった。ラズベリージャムの酸味がアクセント。
この店のコーヒーは、かなり濃くて苦い。基本的にブラックで飲む僕でも、少しだけミルクを加えたくらい。たぶんダークチェリーのタルト(定番)などで、丁度良いバランスなのだと思う。
実はこの後に訪れた熱海温泉の帰りに再度寄ることもできたのだが、さすがにそれは我慢した。それくらいに気に入った、ということだ。
熱海。
子供の頃は家族旅行でよく訪れた。
親戚や祖父母と、いわゆる「観光ホテル」に何泊かするのが、毎年の習慣だった。
最年少だったからか、あるいは小児喘息の関連か、理由は忘れたが、僕と祖父以外だけが宿に残ったことが何度かあって、そういう時は、熱海の温泉街、繁華街を2人だけで散歩して時間を潰した。
そして普段は行かないようなレストランや喫茶店に連れていってもらった記憶がある。
特に「スコット旧館」のクリームコロッケは鮮烈な印象があった。ぺたっとしてウスターソースや中濃ソースをかける総菜のコロッケしか知らない幼稚園児が、さくさくしていて、しかもよくわからないソースが銀の器に添えられたコロッケに出会ったのだ。
店の名前は大人になってからも何度か本で見かけていた。なにしろ熱海の名店。店名の書かれたお皿と、いくつかの名物メニューは、旅行本の定番だ。
そのお店に、今日は初めて、自分で行ってみた。
海の近くに車を停め、数十年前の記憶に従い自転車を走らせる。
お店はほどなくして見つかり、席もタイミングよく空いた。
店内は、子供の頃の記憶とは違うが、しかし昭和の洋食店らしさが溢れている。
メニューは、想像していたよりも高価だった。祖父、こんな良いものを幼稚園児の孫に食べさせてくれたのだな、と驚きながらも感謝する。確か人生初のタンシチューはこの店で食べた。ランチは少しお得な価格で、前菜からデザートまで付いてくる。きちんとクリームコロッケも存在した。
そのクリームコロッケは本当に美味しかった。
パイ包みのカニ肉と海老が入ったクリームコロッケに、トマト風味のソースをかけて食べる。なんとも贅沢な味。でも、いわゆる高級コース料理ではなくて、面白い。
近くの席では、身なりの良い老姉妹がそれはもう凄い勢いで注文し、お喋りせずに延々と食べていた。連れていた孫よりも食べていたと思う。おお、江國香織っぽい!と嬉しくなってしまった。僕はランチセットだけでお腹いっぱいだったのだが。
熱海では古いお店や風景を眺めたり、お菓子を買って過ごした。
坂が多いから自転車散策には向かないし、人も多くて疲れる。延々と積み重ねてきた「昭和レトロな温泉街」の演出も飽きてくる。でも、それでも良い街だと思う。しばらくぶりの訪問だったが、また近いうちに遊びに行こうと考えている。
熱海は斜面の街。
そして観光ホテルは衰退していく一方。だから、こういう風に、取り壊し風景が「断面」として見物できるし、建物だけ剥がされて骨格だけになった廃墟もあちこちにある。僕が20代の頃に泊まった宿は、老人ホームになっていた。
熱海の次は三島。
三島には「Z会」という、通信教育の会社があり、その会社が運営する「大岡信ことば館」という「ことばと詩の美術館(博物館?)」がある。小さいけれど、面白いイベントが多い。
今日はそこで開催中の「新海誠展」を観てきた。
ここでの展示で定番の、立体に切り抜いた「ことば」が展示品とリンクして飾られている演出が、とても合っている。新海誠監督の最初の作品、「ほしのこえ」の紹介ではブラウン管のTVで映像を流したり、といった工夫も面白い。
絵コンテや修正指示、美術資料など盛りだくさんの展示だった。監督がそれぞれの作品で目指すものが明確、かつ過去のインタビューなどできちんと残っているので、とてもわかりやすいのも特徴かもしれない。
建物を出てから、三島の風景が「新海誠的にキラキラ」して見えて困ってしまった。
そう、三島は自転車散策に最適の街だ。ゆるやかに坂があるのは疲れるけれど、綺麗な水が流れる水路や古い街並みに沿って走るのが気持ち良い。時には自転車を押して、あるいはどこかに停めて、歩くのも良い。大きな神社のある街らしく、飲食店が多い印象。
僕は三島市に来ると、公園でアルパカに会うのが習慣になっている。
三島では気になるケーキ店に行った。何やらお祭りが開かれていて、なんとなく眺めたりして夕刻まで過ごした。
ことば館では、この本を買った。
素敵な本。しかし詩集なんて買うのは久しぶりだ。
三島から沼津は、あっという間。
どうしようかな、と思いながら沼津市の「クレマチスの丘」へ行く。入館時刻ぎりぎりに写真美術館に到着し、なんとなく今日は止めておこうと近隣を散歩するに留めた。
有料の箇所はどんどん閉まる時間帯だったが、そうでない部分を歩くだけで十分に楽しめる。夕日と緑だけで満足。ちなみに写真は撮り忘れた。
それから沼津の街に行き、軽い夕食を食べたり、どういうわけか書店に寄ったりして夜まで遊ぶ。そして、静岡県中部までのんびり帰り、今に至る。
なんと、先日の松本日帰り旅よりも、買ったものが多い。主に焼き菓子、そしてうっかり寄り道して買ってしまった服とか。
今から荷物の整理をして、そして寝ます。以外と疲れたが、想像以上に移動時間が短かった。静岡県東部、以外と近い。