蒟蒻の味噌汁

ご近所の知り合いから、上等な蒟蒻をいただいた。どれくらい凄いのかはよくわからない。旅先のお土産売り場に並んでいる品よりは、たぶん良いものなのだと思う。透明な袋に入っているだけの素っ気ないものだが、それくらいはわかる。

いただいた時に、「味噌汁にすると、味の違いが明確になる」と聞いた。
そして、「蒟蒻のみのプレーンな味噌汁でなければ駄目だ」とのこと。

ならば作ろう。朝食にて支度をし、食べてみた。
添付文書によると、あく抜きに45分という、妙な時間を指定してくる。長いし、具体的かつ細か過ぎる。確かに上等な品だということだけは伝わってくるが、でも蒟蒻だぜ、って思ってしまう。

とにかく食べてみる。
うん、まあ美味しいのだろう。
こりっとしている、とまではいかないまでも、固さが違う。味はどうなのか、よくわからない。なにしろ蒟蒻だから、溢れる旨みが舌の上で極上の音楽を奏で世界の法則が書き換わり空から天使が…とはならなかった。
特別な野趣も無いし、水の如し善さ、というのもまた違う。ただただ、蒟蒻味だった。

しかし蒟蒻だけの味噌汁は、実際味噌汁としては美味しい訳ではない。
上等な蕎麦屋で、「まずは水だけで(キリッ)」とざる蕎麦を勧められた経験があって、なるほど蕎麦の香りは良いものなのだなと感心したのだけれど、あれだって最初から最後まで水で食べていたら拷問になっていたと思う(その後、次は塩で、そしてようやく蕎麦つゆが登場した)。

味噌汁にはコクを足すと良い、と僧坊料理の本に書いてあった。
茄子だけを具にするのなら胡麻油、といった風に。身近なところでは、豆腐には油揚げが合う。あの油揚げも、コク担当なのだ。
大根の千切りなど、野菜をたくさん使う、しかも甘みのあるものならば、それはそれで味噌味に合うから不要だが、基本は「味噌にはコク」だそうだ。

その説によると、蒟蒻だけの味噌汁は、やはり寂しい。というか、食べていてずっと、その本のことを思い出していた。こっそり一味唐辛子を振ってみたが、あまり効果は無かった。

ただし、こういう素っ気ない食事は好きだ。
物足りなさも味のうち、というか。
出勤する日の朝食には、どうにも馴染まなかったが、でも良い経験となった。

 

 

 

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