車の給油ランプが点灯して3日目。そろそろガス欠が怖い頃合いとなったため、ガソリンスタンドに立ち寄る。今回はセルフ式のスタンド。
セルフ式は、この季節は寒い。でもまあ、自宅の近くで入りやすい場所というと、どうしても同じ店になってしまう。価格はどこもそれほど変わらない。店員が入れてくれる店とも変わらない。しかしどうせ数十円の違いであり、特にこだわりは無い。
寒い夜に、がんばって給油作業を続ける。
雪国の人達はどうやって給油しているのだろうか、などと考える。導電性のある手袋を着用するのだろうか。
あと少しで給油完了、というところで送油がぴたっと止まった。何なのだろうとノズルの角度などを見ていた時に、隣のそのまた隣の給油エリアに、店員2名が駆け寄るのが見えた。
どうやら、煙草を咥えながら給油を始めようとした人がいたらしい。
とりあえず全場の給油を一時停止、そして彼(おっさんだった)に注意をする、という対応とのこと。
なるほど、火気厳禁が定められた場所で、煙草の周囲でだけ危険物の出入りを止めてもあまり意味は無い。少なくとも、法令その他に定められた安全確保にはならないのだろう。
一斉に止める、というのは理に適っている、と僕は思う。どこまでがマニュアルなのか法令なのか法律なのか知らないが、それくらい厳しい場所なのだ、ガソリンスタンドは。
しかしこの21世紀になってセルフ式ガソリンスタンドでの火気厳禁を把握していない利用者は、たぶんいない。それでも吸う人というのは、つまりルールを守る気が無いのだ。
このおっさんがまさにそうで、何やら店員達に文句を言っていた。
がーっと怒って、でも店員も譲らず、結局そのまま退去した様子。
このように、「話が通じない人」というのは、どこにでも存在する。
どちらかというと庶民的で生活臭のある場所に目立つ気がするのだけれど、どうだろう。コンビニエンスストアで威張り散らす人が乗っていた車に「V.I.P」と書いてあった時は、笑ってしまった。
話が通じない人、といってまず思い浮かべるのが、職場の知り合いだ。以前、一緒に書店に行った時に、雑誌の記事を撮影していた。慌てて止めたのだけれど、その時に
「えっダメなの?みんなやっているよ」
と言われてしまった。
みんなやっていれば許されるなんて理屈は無いと思うし(多数決で決まるのか?)、それは少し考えればわかる。売り手側、作り手側、そして買う側の立場と、様々な方面から考えることも可能な問題だと思うし、それほど難問でもないだろう。でも、きっと今まで考えてこなかったのだ。
お店のあちこちには「撮影は禁止です。窃盗みたいなものです」と貼り紙があるが、それだってきっと見ていない。
そういえばこの人は、こんな事も言っていた。
「コミックはビニールカバーが邪魔で、立ち読みができない。みんな好きで漫画を描いているのだから、本当に読みたい人、ピュアな読み手には無料で開放すればいいのにね」
これも僕はびっくりした。返答より先に、「ピュア」と声に出してしまった記憶がある。
「漫画家は出版社からお金を貰えばいいし、出版社はオタクから多くお金をとればそれで十分じゃないか、誰もが儲けるつもりだからダメなんだ」と。ピュアなオタクがいたら世界の法則が崩れそうな理屈だ。僕はたぶん無料閲覧ができない側だ。
そのレベルの理屈でいえば、日本銀行は国民全員に1兆円ずつ発行すれば万事解決、という気もする。あの時に提案していれば褒めてもらえたかもしれない。
そういえばガソリンスタンドで騒いでいた人は、「言われれば火なんて消すが、煙草で引火した事なんて無いし、他の店ではいつも何も言われない」みたいな事を言っていた。きっとピュアな、つまり自分が大好きで大切で最高なのだろう。
ガソリンの引火性が(そして書店を取り巻く経済とモラルが)彼らのピュアさを汲んでくれるとは到底思えないのだけれど。